2年ぶりに東響定期に登場したスダーンがシェフ時代の緊密な造作を再現しつつ、オケが新たに獲得した能力も活用した名演を披露
桂冠指揮者ユベール・スダーンが2年ぶりに東響定期に登場した。演目は、シューマンの交響曲第1番「春」(マーラー版)とブラームス/シェーンベルク編のピアノ四重奏曲第1番。クラシカルな音楽に近代の大家が味付けした作品が並ぶ興味深い内容だ。
2曲ともに16型での演奏。ここに本日の方向性が表れてもいる。シューマンは、第1楽章の序奏からじっくりと運ばれ、主部は“堂々と弾む”といった趣。マーラー版らしく、分厚い響きの中にも旋律線がくっきり浮かび上がる。第2楽章はたっぷりとした歌が流れゆき、第3、4楽章はエネルギッシュだがやはり恰幅(かっぷく)がいい。
ブラームスは、第1楽章の出だしから表情豊かで、その後もメリハリの効いた音楽が展開される。曖昧さがない点はスダーンらしさと言えようか。第2、3楽章は、音色と表情の変化が鮮やかで、特にドラマティックな第3楽章の中間部が感銘深い。第4楽章は当編曲の楽器法をフルに生かしたカラフルな演奏。ロマのテイストと近代的なダイナミズムが渾然一体となって突き進む。
全体にマーラー版とシェーンベルク編の重層感や色彩感に焦点を絞り切った表現が潔く、この点が本プロの妙味を明確に伝える快演に結び付いたといえるだろう。加えてスダーンは、シェフ時代の緊密な造作を蘇らせながら、現監督ジョナサン・ノットがもたらした駆動力や立体感をも活用するアプローチをみせたように感じる。これは東響の新たな魅力。ゆえに再登場を強く望みたい。
(柴田 克彦)
公演データ
東京交響楽団第717回定期演奏会
12月16日(土)18:00 サントリーホール
指揮:ユベール・スダーン
シューマン:交響曲 第1番変ロ長調Op.38「春」(マーラー版)
ブラームス/シェーンベルク編:ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。