新国立劇場 ジュゼッペ・ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」

新国立劇場の力作「シモン・ボッカネグラ」

ヴェルディのオペラ「シモン・ボッカネグラ」が、ついに新国立劇場に登場した。14世紀に実在したジェノヴァ共和国の総督シモン・ボッカネグラを主人公に、父娘の深い愛と激しい政治的陰謀とが交錯する物語だ。このオペラは、「シチリア島の夕べの祈り」に続いて作曲され、さらに24年後、「アイーダ」のあとに改訂されたもので、音楽には叙情的な要素が比較的濃く、ヴェルディのオペラとしては異色の存在とも言えるが、しかしこの美しく緊張感の強い音楽は、やはりヴェルディならではのものである。

新国立劇場ジュゼッペ・ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
新国立劇場ジュゼッペ・ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

この名作が今回、驚くほど高い水準で上演されたことはうれしい。まず、芸術監督・大野和士の指揮のもと、東京フィルハーモニー交響楽団が極めて緻密な演奏を聴かせたこと。そして、題名役のロベルト・フロンターリ、その娘アメーリア役のイリーナ・ルング、その恋人アドルノ役のルチアーノ・ガンチ、総督の腹心パオロ役のシモーネ・アルベルギーニ、アメーリアの祖父フィエスコ役のリッカルド・ザネッラートらの主役たちがそろいもそろって手堅く充実した歌唱を繰り広げたこと。

シモン・ボッカネグラ役のロベルト・フロンターリ 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
シモン・ボッカネグラ役のロベルト・フロンターリ 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

そして、この音楽的な水準の高さに加え、登場人物たちの性格表現に重点を置いたピエール・オーディの演出が要を得て分かりやすく、アニッシュ・カプーアの抽象的な舞台美術も、火山(逆さづり)を「争い」の象徴とするなど、見事な舞台がつくられていたこと。

 

これは、近年の新国立劇場のプロダクションの中でも、ベストの部類に入る上演ではないかと思う。上演時間は約3時間。初めて見る方は、事前に人物関係を頭に入れておくことをお勧めする。
(東条碩夫)

 

※取材は11月15日の公演

公演データ

11月15日(水)19:00、18日(土)14:00、21日(火)14:00、23日(木・祝)14:00、26日(日)14:00

公演データ等の詳細は新国立劇場ホームページをご参照ください。
シモン・ボッカネグラ | 新国立劇場 オペラ (jac.go.jp)

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東条 碩夫

とうじょう・ひろお

早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作を手掛ける。1975年度文化庁芸術祭ラジオ音楽部門大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」)制作。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿している。著書・共著に「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(中公新書)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他。ブログ「東条碩夫のコンサート日記」 公開中。

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