~番外編~ ウィーン国立歌劇場「ばらの騎士」 オーケストラピットの中から

ウィーン国立歌劇場「ばらの騎士」日本ツアーに参加中
ウィーン国立歌劇場「ばらの騎士」日本ツアーに参加中

ウィーン国立歌劇場「ばらの騎士」公演の初日が無事に終わりました!

オペラ座に初めてエキストラとしてお声がけいただいたのは2021年のこと。それまで一度もオペラを弾いたことがなかった私にとって、すべてが初めてで右も左も分からない中での経験でした。それでも、その現場が「オペラを本格的に学びたい」と思うきっかけを与えてくれ、私はインスブルックへ行く決意をしました。

「ばらの騎士」は、そのインスブルックでの最初の仕事でした。作品を弾いたこともなければ、首席としての経験もない中で、自分には何も分からないという自覚を持ち、必死に勉強を重ねました。

オペラ座の楽譜には本当に余計なことが書かれていません。ボウイングも基本的に楽譜通りで、指揮者の拍子変更指示すら書かれていないことも多くあります。それでも初日のリハーサルからなんとかついていけたのは、インスブルックでの経験があったからだと、今ははっきり確信しています。

ウィーン国立歌劇場のオーケストラは、他の楽器や歌手を聴きながら、まるで大きな室内楽のように共同作業で音楽をつくるアンサンブルです。指揮者がどんな拍子を振っていようとも、音楽を理解していれば自然に一体となる。皆さんの中に音楽が完全に入っているからこそ成り立つ世界だと感じました。

そして何より、ピットでの強弱のつけ方には改めて驚かされました。ピアニッシモは極限まで繊細に、フォルテもウィーン・フィルで弾くときとはまた違う種類のフォルテ。まさに完璧に「弾き分けて」いると感じました。あの大人数で、あの音量を抑えながら美音を保てること……本当に奇跡だと思います。私自身も、この期間で「自分は実はこんなに強弱をコントロールできるのか」と気づかされる日々でした。

あの極上のサウンドを生み出せるオーケストラは、まさに唯一無二。あの圧倒的な美音は、世界のどのオーケストラにも代えがたいものだと確信しました。

そんな素晴らしいオーケストラとともに、日本で大好きな「ばらの騎士」を演奏できることが、今でも夢のようです。まだまだ書きたいことは尽きませんが、今日は初日を終えての率直な気持ちを綴りました。残り3公演、ご来場の皆さまに心から楽しんでいただけますように。そして、もしピットの中の私を見つけたら、あたたかく見守っていただけたら嬉しいです。

有冨 萌々子

Momoko Aritomi

東京都立総合芸術高等学校音楽科ヴァイオリン専攻卒業後、ヴィオラに転向。東京藝術大学ヴィオラ専攻を経て、ウィーン国立音楽大学学部、修士課程共に満場一致の首席で卒業。
日本演奏家コンクール、ウィーン・ディヒラーコンクール、アントン・ルービンシュタイン国際コンクール、東京音楽コンクール、ブラームス国際コンクールなど、数々の国内外のコンクールにて入賞、優勝。
2019/2020年度公益財団法人ローム ミュージック ファンデーション奨学生。2022年度オーストリアHFPヤングアーティスト賞受賞。NHK-FMリサイタル・パッシオ、ヤングプラハ国際音楽祭などに出演。CHANEL Pygmalion Days 2023年参加アーティスト。
これまでにヴァイオリンを玉井菜採氏、窪田茂夫氏に、 ヴィオラを大野かおる氏、Wolfgang Klos, Ulrich Schönauer, Thomas Selditz, Tobias Leaの各氏に師事。
2022-2024年度ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のアカデミー生として研鑽を積み、同時期にウィーン国立音楽大学にてセルディッツ教授のアシスタント及び講師も勤めた。
国内外のオーケストラでゲスト首席奏者を務めるだけでなく、ソリストとして東京フィル、日本フィル、新日本フィル、スロヴァキア国立放送交響楽団と共演するなど、オーケストラ奏者、ソリスト、室内楽奏者、指導それぞれで今最も期待されている若手実力派ヴィオラ奏者である。

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