国際音楽祭NIPPON芸術監督 諏訪内晶子(ヴァイオリニスト)

世界的に活躍するヴァイオリニスト・諏訪内晶子が芸術監督を務める国際音楽祭NIPPONが2月10日から3月3日までの間、神奈川県横浜市、愛知県、宮城県、岩手県の各地で開催される。9回目となる今年もオーケストラから室内楽まで多彩なプログラムが披露される。開催を前に諏訪内が毎日クラシックナビのインタビューに応え、音楽祭にかける思い、今年のプログラムの魅力などについて語ってくれた。聞き手は音楽評論家の柴田克彦さんです。

国際音楽祭NIPPONの芸術監督を務めるヴァイオリニストの諏訪内晶子
国際音楽祭NIPPONの芸術監督を務めるヴァイオリニストの諏訪内晶子

国際音楽祭NIPPONは今回で9回目、「芸術には時間がかかる」ということです。

——国際音楽祭NIPPONも今度が9回目。まずはこれまでを振り返っての思いをお聞かせください。

諏訪内 「芸術は時間がかかる」ということです。継続によって生まれることもありますし、先のことも考えないといけない。逆にそれがあることで自分の進むべき道も見えてきます。これは芸術活動においてとても大切なことだと思うのです。
また、始めた当初は「自分一人の演奏だけでなく、色々な事柄に気を配らなければならない」ことを不安に思っていましたが、回を重ねるにつれてそれもなくなってきました。実際には人に助けられる部分や、良き共演者に引き上げられる部分も多いですから。

——2022年にバッハの無伴奏曲の公演を行った際、直近(実際は2020年10月から)に、ストラディヴァリウスからグァルネリ・デル・ジェズに楽器を変えたと話されていましたが、その後の感触はいかがですか?

諏訪内 今は素晴らしい状態です。弾けば良い音が出るストラディヴァリウスとは違って、グァルネリは自分で音を作る必要があるのですが、弾き込んでいく内により自分の音が出せるようになり、響きはふくよかで音色の豊かさも増しています。何度も共演しているオーケストラから「楽器を変えた?」と言われるケースが多くなってきました。

2月10日から始まる今年の国際音楽祭NIPPONの発表会見の様子。音楽祭に出演する葵トリオの(右から)秋元孝介(ピアノ)、辻󠄀本玲(チェロ)、諏訪内(左)(C)松尾淳一郎
2月10日から始まる今年の国際音楽祭NIPPONの発表会見の様子。音楽祭に出演する葵トリオの(右から)秋元孝介(ピアノ)、辻󠄀本玲(チェロ)、諏訪内(左)(C)松尾淳一郎

今回の音楽祭の音楽祭の聴きどころについて

——今回のフェスティヴァル・オーケストラの公演内容についてお話くださいますか。

諏訪内 ハイドンとモーツァルトのト短調交響曲の間に、私がソロを弾くハイドンのヴァイオリン協奏曲第3番とペルトの「フラトレス」を挟んだ面白いプログラムです。ハイドンは、前回モーツァルトの協奏曲を取り上げたので、時代の近い作品をと考え、中でも1番に比べて弾かれない3番を選びました。この曲はドイツで演奏したことがありますし、今回も、ゲッツェルさんの指揮により、皆さんのハイドン観が変わるかもしれません。
またこの公演では、オーケストラのメンバーに当音楽祭のマスタークラス出身者が複数加わっているのも特徴です。これはツアー・プログラムではなく、音楽祭ならではの内容だと思います。

——ペルトの作品だけ若干異質ですね?

諏訪内 現代の作品も入れたいと思い、プログラムに含めました。私はペルトさんご本人とお会いしたことがあります。2007年にブーレーズの指揮で演奏したエトヴェシュ作曲のヴァイオリン協奏曲「セヴン」がモナコで賞を受賞したのですが、そのときの審査委員長がペルトさんで、モナコに行った時「僕が、あの曲を推したんだよ」と言われました。そういう接点があるとより演奏したいと思いますよね。この曲は、リサイタルでピアノと演奏した時の評判が良かった。

指揮者のサッシャ・ゲッツツェル(左)と諏訪内 音楽祭公式ホームページより クレジットは写真右下
指揮者のサッシャ・ゲッツツェル(左)と諏訪内 音楽祭公式ホームページより クレジットは写真右下

——指揮者のサーシャ・ゲッツェルさんに関しては?

諏訪内 前回モーツァルトの協奏曲を共演した際も、非常に重要なカイル(鋭い音を求める楔形の記号)にこだわりがあったり、当時の「トルコ風」がどれほどエキゾティックだったのか等を皆に披露してくれたりしました。すると演奏が全く変わリました。つまりリハーサルによって演奏を変えられる指揮者ですし、元々ヴァイオリン奏者だったのでその重要性がよくわかっています。彼なら、ポピュラーではないハイドンの作品もうまく聴かせてくれるのでないかと期待しています。

ピリオド(時代)楽器、奏法について

——ハイドン等でピリオド楽器や奏法を実践することはありますか?

諏訪内 弓(バロックボウ)は作ってもらいましたし、私がフルサイズで弾き始めた頃は全てガット弦でしたので、それにも慣れています。ただ、練習や勉強をしてイメージ作りに役立てることはありますが、実演では使いません。共演するオーケストラがまずモダン楽器ですので、バランスが取れません。中途半端になるのが、演奏家としては一番嫌です。

——「室内楽プロジェクト」については?

諏訪内 今回は中欧に焦点を当てた内容です。中でもピアノのソン・ミンスさんとの共演をとても楽しみにしています。彼はイム・ユンチャンの先生で、マルティヌーとヤナーチェクを弾きます。また、ドヴォルザークの「テルツェット」は、マールボロ音楽祭で若きヒラリー・ハーンと一緒に演奏したことがあります。この音楽祭は長期間優れたな音楽家と音楽漬けになれるのが魅力で、私が参加した時はクルタークが、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲等をコーチングしていました。アメリカ人の解釈とは全然違いますし、作曲家の立場からの発言も興味深かった。そうしたことを思い出しますね。

フォーレは室内楽の名作曲家

——ブラームス、シューマンに続く 「フォーレ 室内楽マラソンコンサート」については?

諏訪内 フォーレは知られざる室内楽の名作曲家だと思うので、取り上げることにしました。特に転調が特徴的です。転調を繰り返しているようなハーモニーの揺らぎが魅力で、それを丸1日体験して頂ける貴重な機会です。また私は、彼がオルガニストをしていたパリの教会の近くに長く住んでいるので、親しみもあります。もちろんこれも、ソロ活動ではできない、音楽祭でこそ可能なプログラムです。

——最後に、他に重要なコンサートの予定は?

諏訪内 2月に読響と細川俊夫さんの「ゲネシス」を演奏します。

音楽家として充実の度合いを深めている諏訪内
音楽家として充実の度合いを深めている諏訪内

諏訪内 晶子 Akiko Suwanai

1990年史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。BBCプロムス、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ルツェルンなどの国際音楽祭にも多数出演。2012年、2015年エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門及び2019年チャイコフスキー国際コンクール審査員。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。2024年6月に最新アルバム「ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集」をリリース。

桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了。文化庁芸術家在外派遣研修生としてジュリアード音楽院本科及びコロンビア大学に学んだ後、同音楽院修士課程修了。国立ベルリン芸術大学でも学び、2021年学術博士課程修了、ドイツ国家演奏家資格取得。

使用楽器は、日本にルーツをもつ米国在住のDr.Ryuji Uenoより長期貸与された1732年製作のグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」。

公演データ

国際音楽祭NIPPON2026 芸術監督:諏訪内晶子
https://imfn.japanarts.jp/

■サッシャ・ゲッツェル指揮 国際音楽祭NIPPON フェスティヴァル・オーケストラ
【東海市】2026年2月10日(火) 19:00開演 東海市芸術劇場 大ホール
【横浜】 2026年2月11日(水・祝) 17:00開演 横浜みなとみらいホール 大ホール

■室内楽プロジェクト Akiko Plays CLASSIC & MODERN with Friends~中欧の旅
【東海市】 “SELECTION”
 2026年2月25日(水) 19:00開演 東海市芸術劇場 大ホール
【横浜】 “MODERN”
 2026年2月26日(木) 19:00開演 横浜みなとみらいホール 小ホール
【横浜】 “CLASSIC”
 2026年2月28日(土) 14:00開演 横浜みなとみらいホール 大ホール

■フォーレ室内楽全曲マラソンコンサート
【横浜】 2026年3月1日(日) 11:00開演 横浜みなとみらいホール 大ホール

■諏訪内晶子&フレンズ in 東北
【岩手】2026年2月21日(土) 久慈市文化会館(アンバーホール)
【宮城】2026年2月22日(日) マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設)

■ミュージアム・コンサート
【名古屋】2026年2月23日(月・祝) トヨタ産業技術記念館 エントランス・ロビー

■公開マスタークラス<ヴァイオリン部門> <チェロ部門>
【横浜】2026年3月2日(月)、3日(火) 横浜みなとみらいホール 小ホール 他

 

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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