ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリニスト。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第1ヴァイオリン メンバー)

日本フィルのニューイヤープログラムでウィーンの香りを届ける

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第1ヴァイオリンのメンバーでヴァイオリニストのヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクが来年1月24日に横浜みなとみらいホールで開催される日本フィルハーモニー交響楽団の横浜定期演奏会で指揮とヴァイオリン独奏を披露する。「ウィーンの薫り漂う珠玉のニューイヤープログラム」をテーマに前半はベートーヴェンの「献堂式」序曲とモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番、後半はヨハン・シュトラウス一家のワルツ、ポルカのプログラムで弾き振りも行う。この公演にかけるご本人の思いを聞いた。

(宮嶋 極)

ヴィリー・ボスコフスキーが指揮した作品を中心にウィーンの芳香を届けるプログラム

日本フィルとのニューイヤープログラムの意図を説明するヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク
日本フィルとのニューイヤープログラムの意図を説明するヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

——来年1月の日本フィルの横浜定期で指揮とヴァイオリン独奏を披露されます。プログラムはウィーン・フィルの往年の名コンサートマスターで同オケのニューイヤー・コンサートで弾き振りをし、日本フィルとの共演も行っているヴィリー・ボスコフスキーの追憶がテーマとなっているそうですね?

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(以下、H) ボスコフスキーさんは日本フィルとも関係が深かったということで、彼が1955年に初めてニューイヤー・コンサートを指揮した時のことを調べてみました。その時の演目の前半をそのまま今回のコンサートの後半にもってきます。では前半をどうするかを考えた時にボスコフスキーさんがどのような曲をよく演奏していたかを調べたところモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番ト長調(G-dur)であることが分かりました。この曲がG-durだから(関係調の)Ç-dur(ハ長調)で考えた結果、ウィーン・フィルが1842年3月28日に国立歌劇場を出てオットー・ニコライの指揮で(ウィーン・フィルとして)初めてコンサートを行った時の最後の1曲がベートーヴェンの「献堂式」序曲(ハ長調)でした。ウィーン・フィル初の演奏会のプログラムに入っていた曲はウィーンをテーマにした新年の演目にふさわしいのではないかと考えて決めました。ハ長調、ト長調、そしてウィンナ・ワルツ、ポルカと素敵なアンサンブルになると思います。

ボスコフスキーが日本フィルに客演した際のプログラムを見て思いを馳せる
ボスコフスキーが日本フィルに客演した際のプログラムを見て思いを馳せる

——ウィーンの香り、そして和樹さんの思いが詰まったプログラムですね。

 私が(ウィーン・フィルの母体である)ウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団して来年で25年になります。また、(戦争で休止していた)国立歌劇場が再建・再開されたのが1955年、ボスコフスキーさんが初めてニューイヤー・コンサートを指揮したのも1955年でした。また、ボスコフスキーさんが日本フィルを指揮したのは1985年と1986年以来40周年といずれも2025/26シーズンがアニバーサリーとなるわけですね。つまり26年1月、ウィーンをテーマにした演奏会にはたくさんの思いがこもっているわけです。そして来年は日本フィル創立70年、そうしたタイミングで日本フィルさんと一緒に演奏できることは素晴らしいことだと楽しみにしています。

——アンコールがあるとしたらウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートと同じく「美しく青きドナウ」とラデツキー行進曲になりますか?

 それも考えましたが、今回はボスコフスキーさんが最初に指揮したコンサートのプログラム前半というコンセプトを大切にして見送りました。55年の演目からポルカを1曲取り上げる予定です。これを機に今後も機会があれば、もう少しレパートリーを広げていきたいと思います。

最初に出演したウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは2002年、指揮は小澤征爾だった

——和樹さんご自身が初めて出演したニューイヤー・コンサートについてお聞かせください。

 2002年元日で指揮は小澤征爾さんでした。初めてのニューイヤーというだけでもドキドキでしたが、子どもの頃から憧れの存在だった小澤さんの指揮で演奏できるということでも心弾む思いがしました。

ライブラリアンとしても活躍した和樹・ヘーデンボルク
ライブラリアンとしても活躍した和樹・ヘーデンボルク

——プレイヤーとしてだけではなく、一時期はライブラリアンとしても重責を担われていたそうですね。ニューイヤー・コンサートでは多くの名指揮者と共演されていますが、特に印象に残っているマエストロを教えてください。

 もちろん、共演した指揮者ひとりひとりに思い出がありますが、私にとって初めての出演ということもあり、小澤さんが印象深いのですが、ライブラリアンとしての経験でいうとマリス・ヤンソンスさんです。ライブラリアンにとってニューイヤーは曲目数も多いし、譜面の用意に加えて繰り返しをどうするか、準備すること、確認すべきことがたくさんあります。煩雑な作業が年末まで続くことが通例なのですが、ヤンソンスさんはザルツブルク音楽祭最終日の8月31日に譜面を全部確認してリハーサルが始まるまで戸棚に入れてしまっておいてよい状態に仕上げてくださいました。彼は完璧主義者で大変ではありましたが、余裕をもって準備できたことはライブラリアンとして大変助かりましたし、音楽家としても有難かったです。あの体験は忘れられません。

——日フィルとは今回が初共演となりますか? また他の日本のオケを指揮した経験は?

 初めてです。指揮者としては今回が日本デビューとなりますね。(笑い)日本のオケはとても真面目で組織的な印象があります。共演するのは今から楽しみですし、僕がオーケストラのメンバーとして見てきた世界、経験してきた指揮者、世界中を旅して体験してきたものを少しでも分かち合って一緒に音楽を創っていきたいですね。

コロナ禍を経て音楽を伝えることの大切さを再認識

——和樹さんに関してはコロナ禍の21年にサントリーホールのチェンバー・ミュージックガーデンにご兄弟とヘーデンボルク・トリオとして出演した際、涙を流しながら演奏されていた姿が強く印象に残っています。

 コロナ禍は世界中の多くの人にとって突然のことで心の準備がまったくできないまま直面した危機的状況だったと思います。ヨーロッパでもいろいろなことがありました。シャットダウン、ワクチンを接種していないと演奏会には行けない、マスク着用が義務とか、またコンサートホールの客席はチェス盤のようにひとつおきに座るなど、規制がたくさんありました。でも音楽は本来、世界中のすべの人のためにあるものです。行ってはいけないというのはやはり異常なことだったと思います。シャットダウンで演奏会がまったくなくなった時期がありましたよね、歴史上初めてのことだったのではないでしょうか。私たち音楽家には音楽を世界中の皆に届ける義務があるし、聴衆もそれを受け取る権利があります。〝音楽の言葉〟に国境はありません。何があっても引き裂いてはいけないし、結ばないといけないのです。それはコロナ禍の時もそうですが、以前からもそして(世界各地で紛争が起こっている)今だってそうなのです。それがコロナ禍で私が学んだことです。私はこれからもそれ(音楽家として伝える義務)を忠実に果たしていきたいと考えています。

——では、最後に日本の聴衆にメッセージをお願いします。

 1月24日の横浜での日本フィル定期演奏会は、ウィーンからお届けするプログラムです。ベートーヴェン、モーツァルト、そしてシュトラウス・ファミリーの作品を演奏します。そこに共通しているのはウィーン気質というか、ウィーンの魂がこもっていることです。そして私たちウィーン市民、国立歌劇場、ウィーン・フィルと関係の深い作品が多く、それらの作品を日本フィルの仲間たちと一緒にお届けできることを心から楽しみにしています。

——ありがとうございました。

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

オーストリア・ザルツブルク生まれ。モーツァルテウム国立音楽大学でヴァイオリンをルッジェーロ・リッチに師事、ウィーン市立音楽大学ヴェルナー・ヒンク(ウィーン・フィル コンサートマスター 故人)に師事し、いずれも最高位の成績で卒業。1998年からは弦の製造会社「トマスチック・インフェルド」と契約を結び、ヴァイオリンの弦の開発も手がける。2001年よりウィーン国立歌劇場管弦楽団メンバー、04年より正式にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーとなる。93年、オーストリア青少年音楽コンクール全国大会第1位、およびウィーン・フィル特別賞、98年、モーツァルテウム国立音楽大学より「クリスタ・リヒター・シュタイナー勲章」を受章するなど多くの受賞(章)歴がある。オーケストラ・プレイヤーとしての活動の傍ら弟のベルンハルト・直樹(チェロ)、ユリアン・洋(ピアノ)とヘーデンボルク・トリオを組むなど室内楽、ソロの分野でも世界各地で演奏活動を行っている。

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団第414回横浜定期演奏会

2026年1月24日 (土)15:00 横浜みなとみらいホール

指揮・ヴァイオリン:ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

ベートーヴェン:「献堂式」 序曲Op.124
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「我が人生は愛と喜び」Op.263
ヨハン・シュトラウスⅡ世
 :アンネン・ポルカOp.117
 :ポルカ・シュネル「浮き立つ心」Op.319
 :ワルツ「ウィーン気質」Op.354
 :ポルカ「帝都はひとつ、ウィーンはひとつ》」Op.291
 :ワルツ「芸術家の生活」Op.316

詳細は日本フィルホームページをご参照ください。
第414回横浜定期演奏会 | 日本フィルハーモニー交響楽団

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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