人気実力を兼ね備えたソプラノ、田中彩子が国内7カ所を回るツアーを開催

人気実力を兼ね備えたソプラノ、田中彩子が国内7カ所を回るツアーを開催

澄んだコロラトゥーラの歌声で魅了するソプラノの田中彩子が、9月19日から「コロラトゥーラ・ファンタジー」と題したツアーを、国内7カ所で行う。今回のプログラミングの狙いや、リサイタルへの意気込みをうかがった。

(取材/文:深瀬 満)

国内7カ所で開催するコンサートツアーについて語る田中彩子
国内7カ所で開催するコンサートツアーについて語る田中彩子

——9月からのツアーは「コロラトゥーラ・ファンタジー」と銘打たれています。
田中 前半はファンタジー・オブ・コロラトゥーラとして、ファンタジーの雰囲気とコロラトゥーラの浮遊感がマッチしたミステリー小説みたいに作れたらと思って、曲を選びました。後半は1960年代のユーロポップや映画音楽に光を当てようと思います。

——曲目をみると、メシアンにオッフェンバック、アーンと、ずいぶんフランスの香りがしますね。
田中 偶然なのですが、ファンタジーの柔らかい雰囲気を意識したら、おのずとフランスものが増えたのかもしれません。メシアンの「ヴォカリーズ」には、さまざまな色がワーッと見える印象があります。オッフェンバック「ホフマン物語」のオランピアはお人形さんですから、まさに物語の中でのお話です。アーンの「クロリスに」には、永遠の命を得られる神様の食べ物が出てきます。こうした非日常的な雰囲気があり、コロラトゥーラの音色も生かせる曲をメインにしていきます。

——メシアンの「ヴォカリーズ」は、ちょっと珍しい作品でしょうか。
田中 4分くらいの曲で、浮遊感がコロラトゥーラに合っています。透けるような優しい色、ちょっとグレーがかったくすんだ色合いが見えてきます。霧の中に偶然太陽の虹色の光が差し込んだとき、霧の黒さと混ざってすごくきれいな色になる感じがします。メシアン独特の世界ですよね。もう少し年齢を重ねて哀愁が出せるようになったら、もっと歌いたい。

多彩な選曲の意図について語る田中彩子
多彩な選曲の意図について語る田中彩子

60年代のユーロポップや映画音楽にも挑戦

——リサイタル後半は、曲の色合いが変わりますね。
田中 1960年代のユーロポップや映画音楽は、ずっと歌ってみたかった分野でした。父の影響で子供の頃から聴いていて思い出があるのですが、自分はクラシック専門だから、自分で歌うことはないかなって思っていました。でもこの数年、リサイタルで取り上げてみたら、お客さんから「懐かしかったです」とか反応をいただくようになり、うれしくなって、さらに挑戦してみようと思い立ちました。

——この時代のユーロポップや映画音楽の魅力は、どこにありますか。
田中 まずメロディーです。シンプルなメロディーラインなのに心に残る。1回聴いたら忘れられない曲が大量にある時代でしたよね。だから自分も、なるべく線引きしないで、チャンスがあったら歌ってみたいと思っていました。

——ヨーロッパのポップスには、アメリカン・ポップスと異なる陰影がありますよね。
田中 イタリア歌曲やフランス歌曲に近いでしょう。メロディーラインは均質が取れているのと同時に、どこか新しい。とてもメロディアスで歌いやすい。伴奏次第で変わる部分もあって、ピアノで弾けばイタリア歌曲に、バンドでやればポップスのように聞こえます。

経験を積み楽しみながらの表現が可能になったと語る田中彩子
経験を積み楽しみながらの表現が可能になったと語る田中彩子

ツアーのピアニストは歌心で相性が合う佐藤卓史

——ツアーのピアノは佐藤卓史さんです。彼とは何度も共演されています。
田中 はい、昨年の10周年ツアーもご一緒しました。最初に共演した時から、とても歌いやすく、私が思うことをくみ取って出してくださる方です。ウィーンにいたこともあって、本当に歌心ある素晴らしいピアニスト。シューベルトのピアノ作品全曲演奏会に取り組まれるほどですから、今回もシューベルトの歌曲を入れたいとは思ったのですが、いや全然いいですよ、とおっしゃって。一緒に歌ってくれる感覚がありますね。

——こうして歌い続けて来られて、このあと意識していきたいのは何ですか。
田中 オランピアのアリアはすごく有名で、若い頃ずっと歌っていたのですが、ある時にいったん置いておこうと思い、そこからもう何年も歌ってこなかったんです。そういう曲をもう1回、温め直したい気持ちになっています。改めて大人の目線で見ると、新たな発見があるだろうと。また、歌に余裕というか余白を出すことが、最近はできるようになってきたかな。若い頃は間が怖いものですが、今なら自分が本当に楽しみながら出せるようになりました。

——本番を楽しみにしています。ありがとうございました。

田中 彩子 Ayako Tanaka

18歳で単身ウィーンに留学。22歳のとき、スイス ベルン州立歌劇場にて、同劇場日本人初、かつ最年少でソリスト・デビューを飾る。その後ウィーン、パリ、ロンドン等世界中で活躍の場を広げている。アルゼンチン最優秀初演賞を受賞。日本でもコンサートのみならず「情熱大陸」や「題名のない音楽会」などのメディア出演も多数。UNESCOやオーストリア政府の後援によりウィーンで開催されている、青少年演奏者支援を目的とした『国際青少年フェスティバル』などに出演するほか、社会貢献活動にも携わっている。
2019年 Newsweek誌 「世界が尊敬する日本人100」 に選ばれる。3rd Album 「ヴォカリーズ」(エイベックス・クラシックス)、フォトエッセイ「コロラトゥーラ」(小学館)発売中。京都府出身、ウィーン在住。

公演情報

ツアーの詳細は公式ホームページをご参照ください。

Ayako Tanaka Official Website
オフィシャルサイト https://www.ayakotanakaofficial.com/
X(旧ツイッター) https://x.com/ayakotanaka223

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