愛と平和への祈りをこめて Vol.15 森麻季 ソプラノ・リサイタル

オペラの魅力が全方位的にぎっしり詰まった充実の2時間

ソプラノの森麻季が「愛と平和への祈りをこめて」というリサイタルを始めて、今年で15年目になる。東日本大震災を機に、歌を通して祈りを捧げてきたのだが、実際、森の歌は聴くたびに「祈り」と相性がいいと感じる。たしかな技術に支えられた純粋な歌声に、聴く人の心を平和にし、元気をもたらす力があるからである。節目の公演を迎えるにあたり、今年の特徴や「愛と平和」への思いを聞いた。

(取材/文:香原斗志)

9月にリサイタルを行う森麻季

——どんな思いでこのリサイタルを続けていらっしゃるのですか?

 3.11(東日本大震災)のとき、被災した方々は悲しみと絶望に包まれ、物資も不足し、大変な状況だったと思いますが、そんな中でも音楽の力を求めていらっしゃると聞き、音楽には人々の心に寄り添い、支える力があると、改めて気づかされました。私たちはいま享受している平和を当たり前のように思いがちですが、震災などの災害はだれにでも起こりうるし、世界にはいまも戦争に苦しんでいる人がいます。だからこそ音楽を通じて希望を届けたいのです。いまある平和をありがたく思える。身近な人とすごせるのを幸せと思える。身近な人たちに「ありがとう」といえる――。コンサートの間だけでも、そんなことを思い起こす時間にできたらいいな、という思いを抱いて歌っています。

——どんなことに留意して選曲されているのですか?

 単に華やかな曲、楽しい曲ではなく、詩の内容が祈りに通じる曲、大事な人を失くした気持ちを歌った曲なども選んできました。演奏機会が少ない曲を多く取り上げるなど、結構、挑戦を重ねています。「こんな素敵な曲があるんですね」という感想をいただけたときはうれしいです。

——今年の選曲の特徴をお聞かせください。

 今回は「幸せを夢見るヒロインたち」と題しました。グリーグの「ソルヴェイグの歌」は、自分のもとからいなくなった人を思う歌で、カントルーブの「バイレロ」は、羊飼いが遠くの羊飼いに向かって歌い、人とのつながりへの希求が深いテーマとしてあります。ともにメロディーが美しく、聴いたことはあっても、歌うのを聴く機会は少ないと思います。マスネの「タイスの瞑想曲にのせて」は、タイスが最後に死ぬ場面です。愛を信じ、幸せに向かって一生懸命に生きながら、幸せになれなかった女性たちの歌を多く選んでみました。

——たしかに、みな幸せになっていませんね。

 「蝶々夫人」もそうですし、「ルサルカ」も王子に恋して純粋な思いを寄せながら、恋は成就しません。「ロメオとジュリエット」もそうです。少し悲しい話ではありますが、どれも素敵なアリアです。

——それぞれ過去に歌ったことはあるのですか?

 歌ったことがあるのは「蝶々夫人」と「ルサルカ」だけで、「ロメオとジュリエット」もこの劇的なアリアは初めてです。私はご存じの通り明るい声ですが、少しずつ深いものに挑戦しています。ある役にふさわしい年齢や声の状態がありますし、年齢とともに深めていきたい、挑戦していきたい、という気持ちが強いのです。特にこのリサイタルは、挑戦を兼ねて新しいものをたくさん取り入れました。ピアノの山岸茂人さんは演奏者に合わせる天才で、私がかなり自由に歌ってもピタリと合わせてくれるので、のびのびと挑戦できます。

香原斗志氏(左)のインタビューに応える森麻季

——今後、このリサイタル以外に、どんな「挑戦」がありますか?

 11月には藤沢市民オペラでモーツァルトの「羊飼いの王様」に出演します。来年の2月には「フィガロの結婚」で伯爵夫人を歌いますが、これも初役です。スザンナも歌えると思いますが、いまの私から自然に醸し出されるのは伯爵夫人だと思います。

——いつまでも挑戦できるのは、テクニックがあってのことですよね?

 やはり技術が身を助けてくれます。昨年など「蝶々夫人」からバロックまで歌いましたが、それも技術で歌っているからできたことです。技術がないと私の存在価値がなくなってしまいます。

——その技術で、このリサイタルでも私たちを幸せにしてください。

 世の中が殺伐としているだけに、歌で愛や平和を伝えたいという思いが以前にも増して強くなっています。この2時間だけでも、日ごろ抱えているストレスを忘れて、歌に没頭していただけたらうれしいです。

リサイタルについての思いを身振り手振りを交えて語る森
リサイタルについての思いを身振り手振りを交えて語る森

公演情報

森 麻季 ソプラノ・リサイタル
愛と平和への祈りをこめて Vol.15
幸せを夢見るヒロインたち~伝えたい美しい詩Beautiful Songs

9月13日(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

ソプラノ:森 麻季
ピアノ:山岸 茂人

プログラム
カントルーブ:「オーヴェルニュの歌」より”バイレロ”
マスネ:「エロディアーデ」より サロメのアリア”彼は優しい人”
ディア・ブーランジェ:”讃美歌”
ヴェルディ:「椿姫」より”あぁ、そは、彼の人か~花から花へ”
レーフィチェ:”雲の影”
プッチーニ:「蝶々夫人」より”ある晴れた日に”
ベッリーニ:「ノルマ」より”清らかな女神よ”
グリーグ:「ペール・ギュント」より”ソルヴェイグの歌”
ドヴォルザーク:「ルサルカ」より”月に寄せる歌”
ナディア・ブーランジェ:”海”
マスネ:「タイス」より”タイスの瞑想曲にのせて” 
あなたは覚えているかしら? あの光輝く旅を

主催者ホームページ
森麻季 ソプラノ・リサイタル | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ

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