ヴァイオリンのヤンネ舘野が50歳の節目に際し、1月16日に東京文化会館小ホールでリサイタルを開く。これに先立ち、毎日クラシックナビのインタビューに応じ、リサイタルへの意気込みやプログラムの意図などを語ってくれた。
50歳の節目に思い出深い曲、父・舘野泉を通して知った作曲家の作品に取り組む
ヤンネ舘野は、1975年、ヘルシンキ生まれ。フィンランド、オーストラリア、米国で学んだ後、2008年から山形交響楽団の第2ヴァイオリン首席奏者を務めている。現在も父でピアニストの舘野泉と共演を続け、この11月には舘野泉米寿コンサートに出演した。1月のリサイタルでは多彩なプログラムを披露する。
「来年の1月25日が50歳の誕生日なのです。そんな節目を前にリサイタルを開くことができて、うれしく思っています。今回は、思い出のある曲、父を通して知った作曲家の作品を集めました。メインのグリーグのヴァイオリン・ソナタ第3番は、1997年、父のグリーグ作品の録音セッションに譜めくりとして参加し、すごく印象に残りました。グリーグのソナタのなかでは一番ドラマティックで美しい曲なので、50歳のリサイタルでやりたいと思っていました。人間のドラマというよりは、自然のインスピレーション、自然のドラマのように感じます。フィンランドと(グリーグの祖国)ノルウェーとは似たようなところもたくさんありますが、フィンランドは平地で湖が多く、ノルウェーは海と山のコントラストが激しい。ちょっと違いますね。ヒナステラの〝パンペアーナ第1番〟は日本ではあまり演奏されていない曲のようですが、20年以上前に父からのみやげとして楽譜をもらい、シカゴの学生リサイタルでも弾きました。アルゼンチンの草原地帯パンパとそこで牛などの世話をするガウチョ。南米の文化をみなさんに知ってほしいと思います。僕は、ピアソラを弾いたり、アルゼンチン・タンゴの演奏にも力を入れてきました。ヒナステラは、ピアソラの先生でした。シューベルトのソナタ(ソナチネ)第2番は、僕がオーストラリアからの留学から帰った頃に、父がシューベルトの録音に取り組んでいて、僕は譜めくりとしてつきあい、大好きになった曲です。何度弾いても難しい曲ですが。シューベルトは、病気もあり、大変な人生を送った孤独な人。あちらの世界を知っているような、天国と地獄のどちらも知っているような、他の作曲家にはない美しさを持っています。本当に魅力的な作曲家ですね。ヤナーチェクのソナタの楽譜は、父が1978年に買ったものです。父は昔からヤナーチェクの音楽が大好きで、僕は、父を通して、ヤナーチェクの音楽がすごく魅力的だなと思うようになりました。彼の音楽は誰にも似ていないところ、そして、ヨーロッパとアジアのどちらにも通じるところが魅力的だと思います。リサイタルの前半は、ドラマティックだけれど、切ないシューベルトのソナタと、激しさはあるけれど、内向的で親密なヤナーチェクのソナタとが、すごく合うなと思い、並べて演奏することにしました。逆に後半は、アルゼンチンのパンパやノルウェーのフィヨルドなどの自然を思わせる、アウトドアな曲にしました」。
共演するピアニスト、有吉亮治との相性の良さ
ピアノの共演は、桐朋学園大学准教授でもある、有吉亮治。
「有吉亮治さんとは、5、6年前に知り合い、以来、年に2,3回演奏しています。彼とは呼吸が合い、一緒にハーモニーが作りやすいのです。ピアニストにこういうのもおかしいのですが、彼は音程が良い。つまり、和声感が素晴らしいのです。彼とは、会話なしでもハモれる。僕はそういうやり方が好きです。彼も個性というか、自分のサウンドを持っているのが伝わってきます。亮治さんと弾いていると、ケミストリー(化学反応)が面白いので、それを聴いていただきたいですね」。
最後に、リサイタルに向けて、抱負を語ってもらった。
「50歳になりますが、これからも新しいことに挑戦したい、新しい世界を見つけたいと思っています。この歳になっても、テクニックをリフレッシュするのは全然可能だと思っています。まだまだ進化させることができると信じています。
日本に来て17年になります。リサイタルをしたり、オーケストラをしたり、アーティストとして本気モードになっていますが、身体のメンテナンスやメンタルのことも考えていかなければなりませんね。今回のリサイタルは、かなりエキサイティングなプログラムになっていますので、東京文化会館(小ホール)の美しい響きで聴いていただけたらと思っています。演奏家としても聴衆としても、旅のようなコンサートが好きなので、音楽の旅のように感じていただけたら、うれしいです」。
(聴き手・山田治生)