室内楽の基本はデュオ。ベテランから新鋭まで、個性豊かな組み合わせによる魅力的な新譜がそろった。
<BEST1>
ブラームス チェロ・ソナタ第1番、第2番
ベネディクト・クレックナー(チェロ)/小菅優(ピアノ)
<BEST2>
「プロコフィエフ・ストーリー」
滝 千春(ヴァイオリン)/沼沢淑音(ピアノ)
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番、第2番/プロコフィエフ(根本雄伯編):「ピーターと狼」
<BEST3>
ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、第10番
伊藤亮太郎(ヴァイオリン)/清水和音(ピアノ)
ドイツを拠点に活躍するピアノの小菅優は、大家の風格を漂わせるようになってきた。日本で開く意欲的なリサイタルはもちろん、オーケストラと共演する有名な協奏曲でも著しい進境をみせる。ドイツの若手チェリスト、クレックナーと組んだブラームスのソナタでは、線の太い濃厚なロマンチシズムをたぎらせ、彫りの深い解釈と表現力に圧倒される。
チェロの熱っぽくセンシティブな歌い込みに刺激され、遅めのテンポでじっくりと作品に内在する感情のひだを、すくい取っていくかのよう。「切なさまで一緒に感じられるアーティストはまれ」と小菅自身が語るとおり、チェロとの相性はぴったりで、意気投合したことが分かる。第1番の沈潜する悲しみや葛藤、第2番の即興性や温かみを、二人がしっかり感じ取って、交歓を深めている。なんとも味の濃いデュオの誕生だ。
新鋭ヴァイオリニストの滝千春は、メニューイン国際コンクール優勝などで頭角を現してきた逸材。デビュー・アルバムにはプロコフィエフのソナタなどを選んだ。6月のリサイタルでもさえていたシャープな現代感覚と高いテンションがアルバム全編にあふれ、身を切るような表現意欲が際立つ。ヴァイオリンに触発されつつ、冷静なリードを保つ沼沢淑音の腰が据わったピアノも聞きもの。6月にも披露された「ピーターと狼」編曲版が、いいアクセントになっている。
NHK交響楽団のコンサートマスターという重責を担う伊藤亮太郎は、ベテランのピアニスト清水和音とベートーヴェンのソナタ全集に挑んでいる。その第3弾は最後の2作品という手応えある選曲。押しつけがましさのない誠実なアプローチで、傑作の魅力を明かす。むしろピアノの方が演出巧者で、時にけれん味ある大きなスケール感を示す。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。