ようやく酷暑が収まり秋めくと、じっくり楽しみたくなるのが室内楽。名手たちが腕を振るった新譜が続々と増えてきた。
<BEST1>
トリオ・アコード/メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲集
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番、第2番/ファニー・メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲より

<BEST2>
ベートーヴェン・フォー・スリー 交響曲第1番ほか
エマニュエル・アックス(ピアノ)/レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)/ヨーヨー・マ(チェロ)
ベートーヴェン(シャイ・ウォスネル編):交響曲第1番、ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」、同第4番「街の歌」

<BEST3>
キアロスクーロ四重奏団/ロシア四重奏曲集
ハイドン:弦楽四重奏曲集Op33「ロシア四重奏曲」第4~6番

トリオ・アコードは東京芸大で同級生だった白井圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)の3人で2003年に結成。その後、全員が欧州へ別々に留学して活動を休止したが、近年になって再開した。オーケストラのトップ奏者や大学教員など枢要なポストの経験から広がった蓄積や芸境を反映し、一体感や滋味の深まりをみせる。
メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲はメロディアスな第1番が有名だが、技巧的な難度が高い第2番も晩年の傑作。3人はお互いを良く聴き合い、しっくり絡み合う。絶妙な間合いと清々しい前進力によって、メンデルスゾーンの濃厚なロマンティシズムをさわやかに描き出す。信頼感に裏打ちされた親密な空気が心地よい。作曲者の姉ファニーのピアノ三重奏曲ニ短調から、第3楽章「リート」をアンコールのように添えたのも心にくい。10月14日には東京文化会館(小)で、この3曲による演奏会がある。
「ベートーヴェン・フォー・スリー」はピアノのエマニュエル・アックス、ヴァイオリンのレオニダス・カヴァコス、チェロのヨーヨー・マと、世界的な巨匠3人が、編曲版によるベートーヴェンの交響曲に挑むプロジェクト。第4作では初期の第1番に、愛称をもつピアノ三重奏曲「幽霊」と「街の歌」を組み合わせた。余裕たっぷりに三重奏に興じる趣で、アレグロ楽章の生き生きとした活力、緩徐楽章の悠然たる深み、いずれもみごとだ。
ピリオド楽器とモダン楽器の双方に通じたヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァの活躍が続く。主宰するキアロスクーロ四重奏団では、ガット弦やオリジナル弓を使ったニュアンス豊かな音色や響きによって、鮮烈に作品の妙味を引き出していく。好評だったハイドン「ロシア四重奏曲」第1~3番に続く後編の第4~6番の新録音でも、みずみずしい感興があふれ出す。

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。