オペラや合唱曲の分野で注目の新譜がそろった。いずれも実力ある指揮者によるライヴ盤で、彼らの関心が今どこに向いているかを知る意味でも重要な作品だ。
<BEST1>
プッチーニ 歌劇「トスカ」
ダニエル・ハーディング(指揮)/エレオノーラ・ブラット(トスカ)/ジョナサン・テテルマン(カヴァラドッシ)/リュドヴィク・テジエ(スカルピア)/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団、他

<BEST2>
ヘンデル オラトリオ「天地創造」
サー・サイモン・ラトル(指揮)/ルーシー・クロウ(ソプラノ)/ベンヤミン・ブルンズ(テノール)/クリスティアン・ゲルハーヘル(バス・バリトン)/バイエルン放送交響楽団&合唱団、他

<BEST3>
ストラヴィンスキー 歌劇「ナイチンゲール」
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)/ザビーヌ・ドゥヴィエル(ナイチンゲール)/シャンタル・サントン・ジェフェリー(料理人)/シリル・デュボワ(漁師)/ロラン・ナウリ(従者)/レ・シエクル、他

ダニエル・ハーディングがローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の音楽監督に就任した。これまでのキャリアからみると意外な気もするが、最初のシーズン冒頭に選んだのは、なんとプッチーニの歌劇「トスカ」の演奏会形式上演。2024年10月にローマで行われた公演のライヴCDが輸入盤で出た。しかも名門ドイツ・グラモフォンからのリリースと、注目度の高さを見せつける。
ハーディングにとってイタリア・オペラは必ずしも遠い存在でなかったにしろ、いきなり「トスカ」に挑むあたり、やはり現地でポストを持ったら本場物を体験してみたかったのだろうな、と想像がつく。プッチーニのシンフォニックな管弦楽法に焦点を当て、シャープなリードで雄弁に鳴るオケが聴き物だ。地元評で「レスピーギの交響詩に匹敵する」と称賛されたカラフルな演奏を、まずは味わいたい。ソプラノのブラットら実力ある歌手陣の名唱も楽しめる。
同じ就任披露でも、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就いたサー・サイモン・ラトルは、ハイドンのオラトリオ「天地創造」を取り上げた。2023年9月、ミュンヘンでのライヴ。弦は基本的にノン・ヴィブラート、トランペットとトロンボーンにピリオド楽器を使う、様式感を徹底したスタイル。強いアクセントやダイナミクスの対比が特徴的な歯切れ良い作りで、快活に生命力がはじける。ソリスト、合唱とも充実している。
作曲当時のピリオド楽器を用いた演奏で、フランソワ=グザヴィエ・ロトが切り開いた功績は見過ごせない。その対象は20世紀初頭の作品にまで及び、ストラヴィンスキーの歌劇「ナイチンゲール」をパリのシャンゼリゼ劇場で2023年3月に上演した際のライヴ盤が出た。手兵のレ・シエクルが奏でる古雅な音色に乗って、ドゥヴィエルら名歌手が自在に振る舞う。

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。