日本を代表するベテラン指揮者の記念すべきライヴ盤

日本を代表する指揮者のさまざまなライヴ盤が出た。大御所の記念演奏会や欧州の名門との記録セットから、結成間もない新団体の初CDまで、実に幅広い。

<BEST1>

ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」

秋山和慶(指揮)/東京交響楽団

ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
エクストン OVCL-00866

<BEST2>

ベルリン・フィルと小澤征爾

小澤征爾(指揮)/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ラヴェル:ピアノ協奏曲(ピアノ:マルタ・アルゲリッチ)/マーラー:交響曲第1番/R・シュトラウス:アルプス交響曲、他

ベルリン・フィルと小澤征爾
ベルリン・フィル・レコーディングス(キングインターナショナル) KKC-9891-7

<BEST3>

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調、第6番ヘ長調「田園」

高関健(指揮)/富士山静岡交響楽団

ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調、第6番ヘ長調「田園」
フォンテック FOCD9918

昨年末まで、かくしゃくとした指揮姿をみせていた秋山和慶の急逝は、日本のクラシック界に大きな衝撃を与えた。折しも、指揮者生活60周年記念を祝った東京交響楽団とのライヴ盤が出たばかりで、喪失感がいっそう募る。

昨年9月21日にサントリーホールで開かれた節目の演奏会(東響の第724回定期)後半で演奏されたのが、ブルックナーの「ロマンティック」。この日は私も会場で聴いており、自然な呼吸に満たされた熟練の解釈に打たれたのを思い出す。作為のない誠実なリードから作品の美質がとうとうとあふれ、温厚な人柄を反映した円満な音楽作りに引き込まれる。対旋律のクローズアップなど曲の構造への目配りも利いており、全体の均整が取れている。まさに大人の至芸だ。
当盤を聴いていると、秋山の折り目正しい整然としたタクトが目に浮かんでくる。円熟の極を示した晴れの舞台が、こうして記録にしっかり残ったのは幸いだった。

クラシック界の顔として長年活躍した小澤征爾の逝去も、昨年の大きなトピックスだった。関係が深かったベルリン・フィルは、楽団の自主レーベルで、過去の放送録音から共演の数々を探しだし、ボックス化した。CD6枚、映像のブルーレイディスク1枚という豪華なセットだ。CDの収録年代は1979年から96年にわたる。曲目も小澤が正規のセッション録音を残さなかった作品を含んでおり、彼の多彩な業績をしのぶ格好の記録となった。

静岡県内の2団体が合流して2021年に誕生した富士山静岡交響楽団。24年に日本オーケストラ連盟の正会員となり、同県唯一の常設プロ楽団として活動を本格化させた。首席指揮者の高関健はオーケストラ・ビルダーの手腕で定評がある。同団初CDのベートーヴェンでも、スコア研究に長じた高関らしい仕掛けが随所で効果を上げている。今後の発展に期待。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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