国内のオーケストラによるライヴCDが、まとめて登場した。推薦した3点とも、実際に会場で聴いた時の感銘やインパクトを、生々しく呼び起こしてくれる。
<BEST1>
オルフ 世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
アンドレア・バッティストーニ(指揮)/ヴィットリアーナ・デ・アミーチス(ソプラノ)/彌勒忠史(カウンターテナー)/ミケーレ・パッティ(バリトン)/新国立劇場合唱団/世田谷ジュニア合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
<BEST2>
シベリウス クレルヴォ交響曲
ピエタリ・インキネン(指揮)/ヨハンナ・ルネサン(ソプラノ)/ヴィッレ・ルネサン(バリトン)/ヘルシンキ大学男声合唱団/東京音楽大学/日本フィルハーモニー交響楽団
<BEST3>
ブルックナー 交響曲第6番(ノーヴァク版)
尾高忠明(指揮)/大阪フィルハーモニー交響楽団
バッティストーニは、やはり歌劇場の人だ。声の扱いはお手の物だし、コーラスを統率するツボを心得ている。オペラで鍛えた劇的感覚に、持ち前の明朗なラテン気質を加えた、熱気あふれる「カルミナ・ブラーナ」のライヴ盤が誕生した。2024年3月にサントリーホールで収録。
強じんなカンタービレの利いた歌にあふれ、光彩陸離(こうさいりくり)たる色彩感が全編を覆う。シャープなリズムと推進力に富んだテンポで、壮健な生命力を噴出させる。一方、第3部では甘美な官能性をたおやかに漂わせ、緩急のバランスが巧み。細部までしっかり目を配っている。
コンビを組む東京フィルは、そんなバッティストーニの自在な呼吸を受け止め、歌ものに強い伝統を発揮。ソプラノのアミーチス、バリトンのパッティらソリストも達者だ。特筆すべきは、新国立劇場合唱団の鍛錬された歌唱(合唱指揮=冨平恭平)。みごとな精度と厚みで、成功に大きく貢献している。
日本フィルの首席指揮者を2016~23年に務めたピエタリ・インキネンは、退任直前の公演で、お国物のシベリウスをいくつか取り上げた。2023年4月にサントリーホールで披露した「クレルヴォ交響曲」がCD化された。ほの暗い男性的な響きと音色は、日本フィルに息づくシベリウス演奏のDNAだ。地元のソリスト、男声合唱団を招いての歌唱が華を添える。同フィルの自主制作盤で、アマゾンの楽団サイトやタワーレコードで購入できる。
尾高忠明の充実度を増す円熟ぶりは、当サイト(速リポ)でも時折、報告されている。2024年1月にサントリーホールで演奏されたブルックナーの交響曲第6番も、まさにその一つ。朝比奈隆時代からの重厚な伝統に、尾高のよどみない前進力に貫かれた率直な解釈が重なり、余裕ある名演となった。緩徐楽章の深みある歌心もいい。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。