ブラームスにベートーヴェン、いわゆる「3大B」に数えられる大作曲家の室内楽の新譜が、クラシック界をにぎわせている。いずれも実力派が本領を発揮した会心作ばかりだ。
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辻 彩奈 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全集
辻彩奈(ヴァイオリン)/阪田知樹(ピアノ)
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諏訪内晶子 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集
諏訪内晶子(ヴァイオリン)/エフゲニ・ボジャノフ(ピアノ)
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ウェールズ弦楽四重奏団 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 全集7
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」/同:第7番「ラズモフスキー第1番」
ヴァイオリンの辻彩奈、ピアノの阪田知樹のふたりとも、華麗なコンクール歴を経て活躍する若手奏者のホープとして、人気と評価が定まってきた。2020年からデュオとして活動を始め、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集をコンビ初のディスクとして送り出した。若き才能の、みずみずしい息吹あふれる快作となった。
辻の魅力は解説書にある通り「凜とした艶やかさ」にある。流麗な旋律へヴィヴィッドに反応して自然に歌い込み、ピュアな展開に耳を洗われる。解釈には、いささかの作為もなく、伸びやかな感興の発露が作品の美質と重なっていく。重要なのがピアノの阪田の存在だ。幅広い分野で適切な様式感とセンスを示す感度の高さでは、同世代屈指の存在だけに、ここでもみごとなコラボを実現。前に出る部分と抑える部分とを巧みに配分し、辻と自在に絡み合っていく。彫りの深い表情と細心の目配りが効いている。
奇しくも同じ作品で競作となった諏訪内晶子は、ベテランらしい風格にあふれる。往年の名手ばりにポルタメントを多用して、テンポの揺れが大きい濃厚な解釈を繰り広げる。愛器グァルネリ・デル・ジェスの妖艶な音色が魅惑的だ。作品の原題表記(ピアノが先に来る)から、ピアノのパートを重視したということで、共演のボジャノフが時に強い自己主張を発揮する。両者で磨き上げたユニークな成果だ。
国内オーケストラの主要奏者らで作るウェールズ弦楽四重奏団は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲へ継続的に取り組んでおり、全集録音も大詰めに来た。今回は「セリオーソ」に「ラズモフスキー第1番」と重要作を並べた。曲のディテールを極限まで掘り起こし、音色や強弱のコントラストが強い。各奏者の細やかな神経が、隅々にまで張り巡らされている。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。