リマスターから新録まで、受け継がれるロシアピアニズム

20世紀ロシアの伝説的なピアニストによる名演群が、最新技術で音質の向上を図られ、ふたたび登場した。師弟関係にある現代の名匠も、新録で名品2曲のアルバムを作った。

<BEST1>

ホロヴィッツ・プレイズ・ラフマニノフ

ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ)/ユージン・オーマンディ(指揮)/ニューヨーク・フィルハーモニック
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/同:練習曲「音の絵」ほか

ホロヴィッツ・プレイズ・ラフマニノフ
ソニーミュージック SICC10434~6(3枚組)

<BEST2>

リヒテル1979年日本ライヴ Ⅰ~Ⅳ

スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
シューマン:「ノヴェレッテ集」ほか(Ⅰ)/シューベルト:「楽興の時」ほか(Ⅱ)/同:ピアノ・ソナタ第9番D.575ほか(Ⅲ)/同:ピアノ・ソナタ第13番D.664ほか(Ⅳ)

ビクター(キングインターナショナル) KKC101~104(単売)

<BEST3>

レオンスカヤ シューマン&グリーグ ピアノ協奏曲

エリザーベト・レオンスカヤ(ピアノ)
ミヒャエル・ザンデルリンク(指揮)/ルツェルン交響楽団

レオンスカヤ シューマン&グリーグ ピアノ協奏曲
ワーナーミュージック WPCS13846

ホロヴィッツの演奏は、いまだに魔術的な魅力を放ってやまない。その生誕120年と、親交の深かった作曲家ラフマニノフの生誕150年を記念して、RCAとコロンビアの両レーベルに1951年から81年にかけて録音され、生前に発売された15曲による3枚組みセットが出た。オリジナル音源から約30年ぶりのリマスターとなる。

 

得意にしていたピアノ協奏曲第3番(1951年モノラルと1978年ステレオ・ライヴ)とピアノ・ソナタ第2番(1968年と1980年のいずれもライヴ)は、2種類の録音が収められた。アメリカ・デビュー50周年記念の「ゴールデン・ジュビリー・コンサート」として、1978年1月8日にニューヨークのカーネギーホールでライヴ録音された協奏曲第3番は、ことに格別。華麗な名人芸で千変万化する曲想を鮮やかに表出し、すみずみに漂うロシア的な情緒が胸を打つ。青白い炎が燃え立つような熱演を、リフレッシュされた音質で満喫できる。

 

しばしば来日公演を行ったリヒテルは、日本の聴衆にも愛された。脂ののった64歳で来演した1979年のリサイタルは、ビクターによって当時最先端のデジタル機材でライヴ収録、レコード化された。それらがリマスターを受け、4枚のディスクで再登場した。中でも、シューベルトの小ぶりなソナタから細やかに抒情(じょじょう)と陰影を引き出し、真価を知らしめた名演群は非凡な重量感をたたえ、じっくり聴き込ませる。

 

そのリヒテルに師事し、大きな影響を受けたのがレオンスカヤだ。最新録音はリヒテルも名演を残したシューマンとグリーグのピアノ協奏曲という傑作の組み合わせ。骨格のしっかりした明確なピアニズムで作品のドラマを悠然と描き出し、豊かな風格を醸す。その深い芸境が奏者の円熟を雄弁に物語る。国内盤はSACDハイブリッド盤なので、より高音質で楽しみたい。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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