古楽器オーケストラで聴く、作品の妙味

作曲当時の、または同じ仕様のピリオド楽器を使う古楽器オーケストラによる、印象深い新譜がそろった。

<BEST1>

メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」 1833年初稿&1834年最終稿

ジョルディ・サヴァール指揮/ル・コンセール・デ・ナシオン

メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」 1833年初稿&1834年最終稿
アリアヴォックス(キングインターナショナル) KKC-6746

<BEST2>

「モーツァルト 1791」

ピエール・ジェニソン(バセット・クラリネット、クラリネットほか)/カリーヌ・デエ(メゾソプラノ)/ヤーコプ・レーマン(指揮)/コンチェルト・ケルン
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」より〝恋とはどんなものかしら〟、クラリネット協奏曲、レクイエムよりラクリモーサ(涙の日)、ほか

「モーツァルト 1791」
エラート(ワーナーミュージック) 5419-773233

<BEST3>

J・S・バッハ「ゴルトベルク変奏曲」BWV988 リイマジンド
(チャド・ケリーによる室内管弦楽版)

レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン)/ブレコン・バロック

J・S・バッハ「ゴルトベルク変奏曲」BWV988 リイマジンド
チャンネルクラシックス(ナクソス・ジャパン) NYCX-10433

メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」は、陽光あふれる現地への紀行で得た楽想をまとめた傑作。流麗なメロディーにあふれ、英国での初演後すぐに絶賛を浴びた。ただ、作曲した当人は気に入らない部分があったようで、改訂を試みている。その後も演奏・出版された初稿はどんどん世に広まり、今でも盛んに流布している。その初稿と最終稿のふたつを、一気に聞き比べできるのが本作のポイントだ。

しかも演奏が古楽界の鬼才サヴァールと、彼が主宰する古楽器オケとなれば、生気に満ちた表情と雅味豊かな音色、スピード感ある響きに、すっかり引きこまれる。ふたつの稿の差異をしっかり示し、それぞれの美点を聴き手に意識づける。その結果、なるほどこれなら両方を録音したくなる訳だな、と思わせるのがサヴァールらしい作戦だ。名曲の隠れた相貌(そうぼう)を引き立たせる知的なアプローチに感心させられる。

 

モーツァルトが晩年に出会い、作風に大きな影響を与えたのがクラリネット。当時のバセット・クラリネットやバセット・ホルンなど複数のピリオド楽器を使い分け、有名な協奏曲や、これらが活躍するオペラ・アリアを集めたコンセプトが、まずは秀逸なのが「モーツァルト1791」というアルバムだ。独奏者のピエール・ジェニソンと、定評ある古楽器団体のコンチェルト・ケルンは、楽器と作品の魅力を存分に明らかにしている。

 

バッハの「ゴルトベルク変奏曲」は、音楽家たちのインスピレーションを刺激してやまない名品だ。バロック・ヴァイオリンの大家、レイチェル・ポッジャーが本作で挑んだのは、管楽器まで含む8種類のピリオド楽器を用いた室内管弦楽版。変奏の面白さを生かしつつ、各楽器の音色やキャラクターの組み合わせの妙を模索し、この作品に新たな地平を切り開くのに成功している。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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