11月は海外のスーパー・オーケストラの来日が続いてハイレベルな名演も相次ぎ、これに負けじと日本の音楽家たちも各地で充実の演奏を繰り広げた。毎日が音楽祭のような1カ月だったが、当サイトの執筆者たちはどの公演をピカイチに選んだのか。そして新しい年最初のイチオシは何か。選者の皆さんのチョイスをご覧ください。
先月のピカイチ
◆◆11月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京交響楽団 第736回定期演奏会〉
11月22日(土)サントリーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/宮田まゆみ(笙)
武満徹:「セレモニアル」/マーラー:交響曲第9番
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〈ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)&デニス・コジュヒン(ピアノ) デュオ・リサイタル〉
11月13日(木)東京オペラシティ コンサートホール
ロベルト・シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番/ブラームス:同ソナタ第2番/クララ・シューマン:3つのロマンス/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番/ドヴォルザーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネより第2楽章(アンコール)他
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~ノット&東響のディオニュソス的な最終定期~
東響第3代音楽監督として数々の快演を残したジョナサン・ノットが、最終の東京定期で指揮したマーラーの「第9交響曲」は、まさに熱狂と興奮と法悦の極致だったと言えるだろう。筆者はこういう「ディオニュソス的」な演奏に大いなる魅力を感じている。一方、ジャニーヌ・ヤンセンのリサイタルは、シューマン夫妻に対するブラームスの秘かな憧憬を滲ませたようなプログラミングと、それを実証したような演奏が傑作だった。
来月のイチオシ
◆◆2026年1月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈読売日本交響楽団 第654回定期演奏会〉
2026年1月20日(火)サントリーホール
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/マグダレーナ・ヒンタードブラー(ソプラノ)/クラウディア・マーンケ(メゾ・ソプラノ)/シュテファン・リューガマー(テノール)/ファルク・シュトルックマン(バス)/新国立劇場合唱団
プフィッツナー:カンタータ「ドイツ精神について」(日本初演)
同率イチオシ
〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第594回定期演奏会〉
1月22日(木)、23日(金)フェスティバルホール(大阪)
下野竜也(指揮)/宮本益光(青ひげ)/石橋栄実(ユディット)/田中宗利(吟遊詩人)
小山清茂:管弦楽のための鄙歌(ひなうた)第2番/大栗裕:管弦楽のための「神話」/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)
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~稀有なプフィッツナー作品、大曲の初演~
「題名を恐れるな そこはナイーブな夜の世界」という読響のチラシを読んで吹き出したが、とにかくプフィッツナー(1869~1949)の作品など、日本ではめったに聴けるものではない。ましてやこのカンタータ。アイヒェンドルフの詩を題材にした、自然と人間との関りを描く100分の大曲である。一方、下野と大フィルの「青ひげ公の城」もいいが、併演される小山と大栗の作品も興味深い。意欲的なプロ、いずれをいずれとも言い難い。
先月のピカイチ
◆◆11月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈NHK交響楽団 第2049回定期公演 Cプログラム〉
11月14日(金)NHKホール
シャルル・デュトワ(指揮)/二期会合唱団
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、組曲「クープランの墓」、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲)
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〈ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演〉
11月16日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
クラウス・マケラ(指揮)
R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/マーラー:交響曲第5番
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~〝音の魔術師〟デュトワ、N響定期で面目躍如~
デュトワが久々に指揮したN響定期 ——特にラヴェル・プロ——は、〝音の魔術師〟の面目躍如。艶やかでしなやかなサウンドと引き締まった造作は、そのタクトでしか聴けない興趣に溢れていた。中でも「ダフニス」の精緻な軽やかさや色彩感は驚嘆の一語。やはりN響には彼の存在が欠かせないことを痛感した。コンセルトヘボウ管は、マケラがオケの特長を引き立てた高機能かつブリリアントな快演。ミューザ川崎の音響も魅力を倍化させた。
来月のイチオシ
◆◆2026年1月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈NHK交響楽団 第2056回定期公演Bプログラム〉
2026年1月29日(木)、30日(金)サントリーホール
トゥガン・ソヒエフ(指揮)/松田華音(ピアノ)
ムソルグスキー(ショスタコーヴィチ編):歌劇「ホヴァンシチナ」─前奏曲「モスクワ川の夜明け」/ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番/プロコフィエフ:交響曲第5番
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〈日本フィルハーモニー交響楽団 第777回東京定期演奏会〉
1月16日(金)、17日(土)サントリーホール
広上淳一(指揮)/カミーユ・トマ(チェロ)
ファジル・サイ:チェロ協奏曲「Never give up」/ショスタコーヴィチ:交響曲第15番
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~ソヒエフ&N響 ライヴが貴重なBプロを推す~
ソヒエフは今のN響に生気と活力を与える最右翼ともいえる存在。プロコの5番で魅せるであろう躍動感と、ショスタコのピアノ協奏曲「第2番」の貴重なライヴの愉しさに期待してBプロを挙げたが、他のマーラー「悲劇的」とフランス&ロシアの物語プロも見逃せない。日本フィルは広上に合いそうなショスタコの15番の新鮮な感触に注目。このほか、ヴァイグレ&読響やルスティオーニ&都響等、1月は在京オケに楽しみな公演が多い。
先月のピカイチ
◆◆11月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
11月19日(水)サントリーホール
ヤナーチェク:ラシュスコ舞曲/バルトーク:「中国の不思議な役人」組曲/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年改訂版)
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〈2025年全国共同制作オペラ 池辺晋一郎「高野聖」〉
11月23日(日)金沢歌劇座
大友直人(指揮)/原 純(演出)/城 宏憲(上人)/冨平安希子(女)/今井俊輔(親仁)/栗原峻希(薬売り)/近藤洋平(天秤棒の男)/徳安 諒(小児のような男)/高橋洋介(私)/山海塾(舞踏手)/坂東玉三郎(語り)/金沢オペラ合唱団/オーケストラ・アンサンブル金沢
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~緊密度を増したぺトレンコ&ベルリン・フィル~
ペトレンコとのコンビでは2年ぶりの来日となったベルリン・フィル。前回より一段と緊密の度を増し、情け容赦のない追い込みで圧倒する。特に19日のロシア=東欧音楽プログラムでは管首席の多くがペトレンコ就任後に入団した新顔で、猛烈な名人芸を発揮した。池辺晋一郎は「高野聖」14年ぶり再演に合わせて改訂を施し、オペラとしての完成度を高めることに成功。上人の城宏憲、女の冨平安希子ら優れたキャストを大友直人指揮オーケストラ・アンサンブル金沢が万全に支え、原純の演出も見応えがあった。
来月のイチオシ
◆◆2026年1月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈山形交響楽団特別演奏会「演奏会形式オペラシリーズⅣ「蝶々夫人」〉
2026年1月18日(日)やまぎん県民ホール
阪 哲朗(指揮)/太田麻衣子(舞台構成・演出)/森谷真理(蝶々夫人)/宮里直樹(ピンカートン)/大西宇宙(シャープレス)/藤井麻美(スズキ)/髙梨英次郎(ゴロー)/山響アマデウスコア他/山形交響楽団
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〈NHK交響楽団 第2054回定期公演 Aプログラム〉
1月17日(土)、18日(日)NHKホール
トゥガン・ソヒエフ(指揮)
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
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~阪&山響の「蝶々夫人」 ゴージャスなキャストを迎えて~
阪哲朗による「バタフライ」の指揮は新国立劇場「高校生のためのオペラ鑑賞教室」でも高い評価を得てきたが、2019年から常任指揮者の任にある山響との演奏会形式上演には、また別の味わいがあるに違いない。キャストも森谷真理、宮里直樹、大西宇宙、藤井麻美…とゴージャスだ。N響定期「1月の顔」となったソヒエフはいよいよ、マーラーの大作に挑む。
先月のピカイチ
◆◆11月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2025〉
11月11日(火)サントリーホール
クリスティアン・ティーレマン(指揮)/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルックナー:交響曲第5番(ノヴァーク版)
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〈新国立劇場 ベルク:歌劇「ヴォツェック」新制作〉
11月18日(火)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/リチャード・ジョーンズ(演出)/トーマス・ヨハネス・マイヤー(ヴォツェック)/ジョン・ダザック(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/アーノルド・ベズイエン(大尉)/妻屋秀和(医者)/ジェニファー・ディヴィス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団/東京都交響楽団
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~ウィーン・フィル 全身全霊を捧げたブルックナー~
最高峰の3つのオケが来日公演で凌ぎを削り、いずれも名演だったが、ウィーン・フィルから比類なき美しい音色と壮大な響きでブルックナーの音楽を導いたティーレマンの指揮は圧巻。ヴォツェックは研ぎ澄まされた音楽、効果的なセット、子役たちの意外性に満ちたエンディングが印象的。深淵な歌を込めたレヴィットのピアノ(25日ミューザ川崎)、ヴィトマンとハーゲンQ(13日TOPPANホール)の心を射抜く共演も忘れ難い。
来月のイチオシ
◆◆2026年1月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京都交響楽団 第1034回定期演奏会Aシリーズ〉
2026年1月23日(金)東京文化会館
ダニエーレ・ルスティオーニ(指揮)
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲/同:歌劇「マクベス」第3幕 バレエ音楽/ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲/同:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、他
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〈NHK交響楽団 第2054回定期公演 Aプログラム〉
1月17日(土)、18日(日)NHKホール
トゥガン・ソヒエフ(指揮)
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
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~オペラの名曲を再び、ルスティオーニ&都響~
26年4月から都響の首席客演指揮者に就任するルスティオーニがヴェルディとワーグナーのオペラ曲を振る。17年にピットで都響と演奏した「トスカ」の鮮やかな音楽作りが印象に残っているが、オペラ指揮者として更なる進化を遂げたマエストロとの再会は必聴だ。
N響とは新年の共演が恒例となっているソヒエフ、今回同団と初披露になるマーラーに第6番「悲劇的」を選んだ。オケの力を最大限に引き出す名手の本領発揮に期待したい。
先月のピカイチ
◆◆11月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈NHK交響楽団 第2048回定期公演 Aプログラム〉
11月8日(土)NHKホール
シャルル・デュトワ(指揮)/小菅優(ピアノ)/大矢素子(オンド・マルトノ)/東京オペラシンガーズ(女声合唱)
メシアン:神の現存の3つの小典礼/ホルスト:組曲「惑星」
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〈ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集 第212回〉
11月23日(日・祝)ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/宮田まゆみ(笙)
武満徹:「セレモニアル」/マーラー:交響曲第9番
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~デュトワが魅せたサウンドの妙~
11月は海外スーパー・オケの来日が相次ぎ、2公演に絞ること能(あた)わず。そこでウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウは対象から外し、在京オケからデュトワが8年ぶりにN響定期を指揮した公演(シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団第2048回定期公演 | CLASSICNAVI)をピカイチに。次点にはノットが音楽監督としては最後となる東響との〝定期〟(ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第212回 | CLASSICNAVI)を選んだ。両公演甲乙つけ難かったが、日本のオケからこのようなサウンドが引き出せるのか、との驚きが強かったデュトワが半歩先を行った。詳細は速リポの拙稿をご覧ください。
来月のイチオシ
◆◆2026年1月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈NHK交響楽団 第2054回定期公演 Aプログラム〉
2026年1月17日(土)、18日(日)NHKホール
トゥガン・ソヒエフ(指揮)
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
次点
〈読売日本交響楽団 第654回定期演奏会〉
1月20日(火)サントリーホール
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/マグダレーナ・ヒンタードブラー(ソプラノ)/クラウディア・マーンケ(メゾ・ソプラノ)/シュテファン・リューガマー(テノール)/ファルク・シュトルックマン(バス)/新国立劇場合唱団
プフィッツナー:カンタータ「ドイツ精神について」(日本初演)
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~相性抜群のソヒエフ&N響 マーラー6番への期待~
イチオシは首席客演指揮者的存在のソヒエフが来演するN響定期。両者の相性は抜群で来年も1月定期3プロともソヒエフが指揮する。中でも大曲のマーラー6番のAプロは注目が集まること必至だ。次点はプフィッツナー「ドイツ精神について」を取り上げるヴァイグレ指揮、読響定期。ドイツ文化の精神性の高さや歴史などを賛美する合唱付き交響曲的作品で、ナチスとの関連などから演奏機会が少ないだけに、日本初演となる今回はぜひ聴いておきたい。










