尾高ワールド全開のシーズンオープニング 指揮者とオケが渾身の演奏で聴衆を魅了
大阪フィルの2026/7年シーズン最初となる今回の定期は、音楽監督の尾高忠明ならではの曲目が並んだ。
幕開けは、尾高の父親の尾高尚忠の交響曲第1番。尾高尚忠はNHK交響楽団の前身の(新交響楽団、日本交響楽団)を率い、指揮、作曲の両面で大車輪の活躍を見せ、音楽界の発展に寄与したが、1951年39歳で亡くなった。
戦後の混乱期1948年の作品だが、「マエストーソ」と指示された序奏では、管楽器のトリルを伴った天地を揺るがすような不協和音が轟く。当時作曲家を襲った激しい頭痛を音楽にしたということだが、同時に戦禍の記憶をも連想させる。その激しさに「演奏前に楽屋を出る時からパッションを蓄えていかないと振れない」と尾高は話す。序奏のあとには日本的といえる旋律や「トリスタンとイゾルデ」を連想する旋律、ブルックナーを思わせる荘厳な金管楽器などが聴き手を演奏に引き込んでいき、20分もの時間を感じさせない緊張感に満ちた演奏で一気に駆け抜けた。
第2楽章は一転して牧歌的な旋律が主となって穏やかに進むが、表現主義的な深い翳(かげ)りも顔をだし、最後は牧歌的な旋律がブルックナーの交響曲第9番の3楽章のように消えていく。
大阪フィルと尾高は、この作品が日本人作曲家の書いた交響曲の最高作の一つであることを証明する熱演で聴衆を魅了した。
後半は「英国」作曲家の2曲が並ぶ。ディーリアスの歌劇「村のロメオとジュリエット」より〝楽園への道〟は、佳き時代を過ごした故郷の料亭「楽園」に出向いた主人公たちが、寂れた様子に絶望、死出の道を歩む様子を描写した間奏曲を繊細なバランスで美しく演奏した。
最後に置かれたのは、エルガーの出世作で英国音楽の〝魂〟といわれる変奏曲「エニグマ」だ。作曲者が家族や親しい友人をモチーフに書いた主題と14の変奏からなり、隠されたもうひとつの「謎」の主題とともに管弦楽法を駆使して展開される。
尾高は、1987年にBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者に就任、「英国で衝撃的にその良さを感じた。こんなに素晴らしい作曲家と知り合えたのが、なによりうれしい」と以前語ったが、その演奏の功績から本家英国のエルガー協会からエルガー・メダルを授与された。
大阪フィルの音楽監督就任後に3曲の交響曲や「ゲロンティウスの夢」などで名演を繰り広げているが、今回も尾高の指揮の一つ一つの動きが多彩な表情を見せ、それに大阪フィルが以心伝心の演奏で応えて終演後には何度もステージに呼び出される名演となった。
(平末 広)
公演データ
大阪フィルハーモニー交響楽団 第597回定期演奏会
4月10日(金)19:00フェスティバルホール(大阪)
指揮:尾高忠明
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:須山暢大
プログラム
尾高尚忠:交響曲第1番 Op.35
ディーリアス(ビーチャム編):歌劇「村のロメオとジュリエット」より間奏曲〝楽園への道〟
エルガー:変奏曲「エニグマ」Op.36
他日公演
4月11日(土)15:00フェスティバルホール(大阪)
ひらすえ・ひろし
音楽ジャーナリスト。神戸市生まれ。東芝EMIのクラシック担当、産経新聞社文化部記者、「モーストリー・クラシック」副編集長を経て、現在、滋賀県立びわ湖ホール・広報部。EMI、フジサンケイグループを通じて、サイモン=ラトルに関わる。キリル・ぺトレンコの日本の媒体での最初のインタビューをしたことが、ささやかな自慢。










