東京・春・音楽祭2026 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェンピアノ協奏曲 全曲演奏会 Ⅱ

ステージ上が一体となった生命力あふれる演奏

24年から3年連続で東京春祭に登場するルドルフ・ブッフビンダー、今回弾き振りで披露するベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会の2日目、第1番と第5番「皇帝」を聴いた。

ルドルフ・ブッフビンダーが指揮と独奏を務めるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会の2日目は、第1番と第5番が演奏された(C)増田雄介
ルドルフ・ブッフビンダーが指揮と独奏を務めるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会の2日目は、第1番と第5番が演奏された(C)増田雄介

春祭オケのコンサートマスターは豊嶋泰嗣、弦楽器12型の編成でピアノは通常の横向きで蓋も全開、ピアノ協奏曲を聴くには嬉しい配置だ。

第1番の冒頭、この上なく柔らかな響きに惹きつけられる。ブッフビンダーは座ったままオーケストラに向かって指揮をするが、始まって間もなくスフォルツァンドの音に向けて立ち上がる。一瞬だが、この音の強調がピアノでも要所要所で際立っていた。

始まって間もなくスフォルツァンドの音に向けて立ち上がったブッフビンダー(C)増田雄介
始まって間もなくスフォルツァンドの音に向けて立ち上がったブッフビンダー(C)増田雄介

そのピアノはフレージングが明瞭で重量感のある低音から煌めくような高音まで一音一音が磨き抜かれた美音が光る。木管や金管楽器にも細かくアイコンタクトを送り、奏者たちもピアノに素早く反応するが、オケを統率する豊嶋のリードも素晴らしい。第1楽章のカデンツァはベートーヴェンが書いた未完のものと一番短いカデンツァの終わり数小節を繋げた合体バージョン。ここで感じた即興性は第2楽章の終盤クラリネットのソロにピアノがオブリガート風なスケールやトリルで対話する場面にも通じる。今生まれたての音楽を聴いているような楽器同志の一体感だ。第3楽章では右手でスケールを弾きながら左手でオーケストラに向かって指示を出すという離れ業もありつつ、華やかで祝祭的なフィナーレ。オーケストラが自発的にブッフビンダーのピアノと一体感のある音楽を奏でていることに感動した。

右手でスケールを弾きながら左手でオーケストラに向かって指示を出す場面もあった(C)増田雄介
右手でスケールを弾きながら左手でオーケストラに向かって指示を出す場面もあった(C)増田雄介

後半の「皇帝」はベートーヴェンが唯一自分で初演しなかった協奏曲で、楽譜に全ての音が書き込まれているというのが、演奏からも伝わってくる。ブッフビンダーはフレージングの中から明確に音を強調して音楽の柱を見せてくれるのだ。

第2楽章冒頭の弦楽器だけでテーマを奏でるところは内声を強調しつつ静かに語りかける。天から降り注ぐようなピアノのトリルと続くカンタービレも甘くなりすぎず、テーマを丹念に歌う。メロディーを繋いだフルート、クラリネット、ファゴットとピアノの調和の美しさには心が震えた。第3楽章はまさにステージ上が一体となった生命力あふれる演奏、鮮やかなパッセージでフィナーレを締めた。

ステージ上が一体となり、生命力あふれる演奏だった(C)増田雄介
ステージ上が一体となり、生命力あふれる演奏だった(C)増田雄介

オーケストラが去った後も拍手は鳴り止まず、一旦脱いだジャケットに袖を通しながらステージに登場して喝采に応えるチャーミングな79歳の巨匠だった。

(毬沙琳)

オーケストラが去った後、鳴りやまぬ拍手に応えるため再登場したブッフビンダー(C)増田雄介
オーケストラが去った後、鳴りやまぬ拍手に応えるため再登場したブッフビンダー(C)増田雄介

公演データ

東京・春・音楽祭2026
ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェンピアノ協奏曲 全曲演奏会 Ⅱ

4月6日(月)19:00東京文化会館 大ホール

指揮/ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
管弦楽:東京春祭オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

プログラム
ベートーヴェン
:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 Op.15
:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」

 

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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