オスモ・ヴァンスカ指揮 都響スペシャル

澄明と強靱――ヴァンスカ×都響が集中力と気迫に満ちた音楽を聴かせる

フィンランドの名指揮者オスモ・ヴァンスカが、東京都交響楽団(都響)とともに母国シベリウスの交響曲2曲を奏でる演奏会。作曲家が国際的名声を得るきっかけとなった第1番と、暗く晦渋(かいじゅう)で難解だが、底知れぬ魅力を秘める第4番の2曲の組み合わせである。第1ヴァイオリン16人のフルサイズ、コンサートマスターは矢部達哉、隣席には山本友重が座る。

フィンランドの名指揮者オスモ・ヴァンスカが登場。都響とシベリウスの交響曲2曲を披露した 提供:東京都交響楽団
フィンランドの名指揮者オスモ・ヴァンスカが登場。都響とシベリウスの交響曲2曲を披露した 提供:東京都交響楽団

交響曲第1番の冒頭、サトーミチヨのクラリネット・ソロがティンパニに伴われて、沈黙と対話するかのように静かに始まる。緊張を高め、主部は一転して全オーケストラがダイナミックに鳴り響く。そのコントラストの見事さ。気迫に満ち、筋肉質で輪郭のはっきりした響きだが、濁ることなく澄みきったハーモニーが美しい。
このハーモニーの美しさは、20世紀末に母国のラハティ交響楽団の音楽監督として、このオーケストラの実力と知名度を一躍高めたときからのヴァンスカの魅力だ。さらに21世紀になってシェフをつとめたアメリカのミネソタ管弦楽団時代には、より輝かしく力強い、機能的な音楽を聴かせるようになった。

シベリウスの交響曲第1番。静かに始まった冒頭から一転、主部は全オーケストラがダイナミックに響いた 提供:東京都交響楽団
シベリウスの交響曲第1番。静かに始まった冒頭から一転、主部は全オーケストラがダイナミックに響いた 提供:東京都交響楽団

澄明と強靱(きょうじん)。この2点のヴァンスカの現在の美質は、そのまま都響の特長とも重なっている。だから両者の相性はとてもよい。2曲のシベリウスには、その効果が非常によくあらわれた。あいまいさのない、集中力と気迫に満ちたその音楽には、往年の巨匠トスカニーニを想わせるものがある。
運命に立ち向かおうとするかのような悲壮さが、第1番全体を支配する。第3楽章の快速の進行は、都響の実力の高さを証明するもの。

澄明と強靱というヴァンスカの美質が、都響の特長と重なり、集中力と気迫に満ちた音楽を聴かせた 提供:東京都交響楽団
澄明と強靱というヴァンスカの美質が、都響の特長と重なり、集中力と気迫に満ちた音楽を聴かせた 提供:東京都交響楽団

続く第4番。まどろむように、現実味を欠いた響き。夢と現、幽と明の境目を、弦楽が漂う。その境界にあるのはチェロ群。首席の伊東裕の優れたソロだけでなく、気がつけばチェロのパートに目がいっている。
このチェロ群を響きの軸として、現実界に浮かびあがろうとするようなヴァイオリン群、また光明を示すように金管も鳴るが、その一方で、死の影のように、コントラバス群が明瞭に響く。第3楽章の、澄んだ悲しみ。
緩~急~緩~急の4楽章構成のようなのに、元気よく始まった第2楽章も第4楽章も、いつのまにか勢いを失い、不安定な調性に足をとられ、沈んでもがいている。動いていた心臓が急に止まるような、唐突なコーダ。
曲の構造に組み込まれた感情のドラマを明快に聴かせる、素晴らしい演奏だった。
(山崎浩太郎)

チェロ首席の伊東裕と握手を交わすヴァンスカ 提供:東京都交響楽団
チェロ首席の伊東裕と握手を交わすヴァンスカ 提供:東京都交響楽団

公演データ

都響スペシャル
3月27日(金)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:オスモ・ヴァンスカ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉

プログラム
シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 Op.39 
シベリウス:交響曲第4番 イ短調 Op.63

Picture of 山崎 浩太郎
山崎 浩太郎

やまざき・こうたろう

演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。

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