下野竜也指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第778回東京定期演奏会

下野がシベリウス「6番」で日本フィルの金字塔に新たな1ページを加える

古典から現代曲まで幅広いレパートリーを持つ下野竜也が、今回56歳にして初めて公開演奏で指揮するシベリウス、下野自身によるプレトークではその並々ならぬ想いが語られ、渡邉暁雄と日本フィルが刻んできた金字塔ともいえるシベリウスに挑む意気込みが伝わってきた。シベリウスの6番は教会旋法が取り入れられており、弦楽器が分奏になることもあり対抗配置にしたという。教会のミサであちらこちらから歌が聴こえてくるようなイメージとも語っていた。

下野竜也が初めて公開演奏で指揮するシベリウス他、こだわりのプログラムを披露した ©️山口敦
下野竜也が初めて公開演奏で指揮するシベリウス他、こだわりのプログラムを披露した ©️山口敦

そのシベリウスは、冒頭から深い歌の呼応が各パートにあり、北欧の自然の雄大さも感じられる。弦楽器のポリフォニーは音楽が泉から湧き出るようにブレンドされながら、それぞれの旋律はクリアに響く。第3楽章のリズミックな主題も丁寧に奏でられメロディアスなニュアンスが保たれるが、コーダで日本フィルが誇る金管群の咆哮(ほうこう)は堂々たる迫力で、楽想の対比も鮮やか。終楽章は木管パートの叙情的で美しいアンサンブルや随所で効果的なティンパニのトレモロなどシベリウスらしい旋律が全楽器で呼応しながら、さりげなく幕を閉じる。最後の余韻の中、魂が浄化されたような清々しさと温もりのあるシベリウスにブラボーが降り注ぎ、日本フィルのシベリウスの歴史に新たなページが加わる名演となった。

シベリウスの交響曲第6番は、日本フィルのシベリウスの歴史に新たなページを加えたとも言うべき名演だった ©️山口敦
シベリウスの交響曲第6番は、日本フィルのシベリウスの歴史に新たなページを加えたとも言うべき名演だった ©️山口敦

前半の1曲目は84年生まれの作曲家サミー・ムーサの「エリジウム」。21年にウィーンフィルが初演し、テレビでその演奏を聴いた下野が早速23年広島交響楽団で日本初演したという作品だ。調性がありながら時空が歪むようなオーケストラの響きは漆黒の闇と星座の間を浮遊するような不思議な感覚に囚われる。

2曲目は93年公開の映画「ピアノ・レッスン」の音楽に基づいて作曲者であるマイケル・ナイマンが編み直したピアノ協奏曲。ソリストの野田清隆は矢代秋雄や尾高惇忠といった現代作曲家のコンチェルトを得意とするだけあって、ミニマル・ミュージックの先駆者でもあるナイマンの書いたほぼ全編にわたるピアノパートを柔らかみのある美しい音色で見事に演奏。「春の祭典」さながらの変拍子など、映画でホリー・ハンターが奏でたあの美しいテーマがピアノから壮大な管弦楽に変容する。作曲家が映像という制約から解き放たれて創作の羽を広げたような作品だった。
(毬沙琳)

マイケル・ナイマン「ピアノ協奏曲」で独奏を務めた野田清隆は、柔らかみのある美しい音色で見事に演奏した ©️山口敦
マイケル・ナイマン「ピアノ協奏曲」で独奏を務めた野田清隆は、柔らかみのある美しい音色で見事に演奏した ©️山口敦

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第778回東京定期演奏会

3月13日 (金) 19:00サントリーホール 大ホール

指揮:下野竜也
ピアノ:野田清隆
コンサートマスター:扇谷泰朋
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

プログラム
サミー・ムーサ:エリジウム
マイケル・ナイマン:ピアノ協奏曲(映画「ピアノ・レッスン」より/1993)
シベリウス:交響曲第6番 ニ短調 Op.104

ソリスト・アンコール
リゲティ:ムジカ・リチェルカータ より Ⅶ.Cantabile, molto legato

他日公演
3月14日 (土) 14:00サントリーホール 大ホール

Picture of 毬沙 琳
毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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