指揮者、オーケストラ、ソリストの鮮やかなパフォーマンスが織りなす快演
2月の都響定期Cシリーズ。ベン・グラスバーグの指揮で、メラニー・ボニスの「クレオパトラの夢」(日本初演)、ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲(独奏はアンナ・ヴィニツカヤ)、バルトークの管弦楽のための協奏曲が披露された。
指揮のグラスバーグは、英国出身で、ウィーン・フォルクスオーパーの音楽監督等を歴任しており、都響には2023年3月以来2度目の登場との由。今回は、全てが明確な好指揮者との印象を受けた。
1曲目の作曲者メラニー・ボニスは、ドビュッシーの学友だった近代フランスの女性作曲家。「クレオパトラの夢」は、9分ほどの幻想的な作品で、ワーグナー「トリスタン~」の影響も感じさせる。ここでは、コントロールの効いたサウンドで、柔らかな夢幻性が精妙に描出された。
ラヴェルの「左手~」は、これまた打鍵が明確なヴィニツカヤのソロが映えた好演。バックともども緩-急-緩の変化が的確に表出され、中でも中間の速い部分の強靭さが耳を奪う。遅い部分もクリアで美しく、曲の真価が明瞭に伝えられた。
アンコールはラヴェル作品が2曲。今回は、曲が同じラヴェルだし、本編が短めなので、抵抗感は少ないものの、楽員を座らせたままのソロ・アンコール2曲はいかがなものか? これはオーケストラの「定期演奏会」であって、ソリストの「リサイタル」ではないのだ。
後半のバルトークは、リズムや強弱が極めて明確な指揮と都響の高い機能性が見事にマッチした快演。ことのほかじっくりと奏された出だしの低弦から耳を惹きつけられ、以下、場面変化も明快な淀みのない表現が続く。各楽章の間をほとんど空けず(指揮棒を下ろさず)に続けた点も、音楽に一貫性をもたらし、コンチェルト・グロッソ的な性格をも浮き彫りにした好判断といえるだろう。都響は、ソロのみならず、2本以上のソリの場面もアーティキュレーションと音質の統一感や音量のバランスが絶妙で、各パートのリレーも実にスムーズ。持ち前の重層的な弦楽陣だけでなく、全楽器が存分に威力を発揮した。
指揮者、オーケストラ、ソリストの鮮やかなパフォーマンスに酔わされたコンサート。
(柴田克彦)
公演データ
東京都交響楽団 第1035回定期演奏会Cシリーズ
2月8日(日)14:00東京芸術劇場コンサートホール
指揮:ベン・グラスバーグ
ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:水谷 晃
プログラム
メラニー・ボニス:クレオパトラの夢Op.180(日本初演)
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
バルトーク:管弦楽のための協奏曲Sz.116
ソリスト・アンコール
ラヴェル
:優雅で感傷的なワルツより 1.モデラート
:亡き王女のためのパヴァーヌ
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










