劇場と市民との10年にわたる活動の豊かな実りを感じた会心のプロダクション
東海市芸術劇場が開館10周年を記念してプッチーニ「蝶々夫人」を上演した。クリスティアン・アルミンク指揮名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏、佐藤美晴の演出、田崎尚美、城宏憲、林美智子、上江隼人ら国内トップ・クラスの歌手を集め、東海市民合唱団、東海児童合唱団、東海市ダンスチームMiakotら地元の団体が参加したプロダクション。
佐藤美晴の演出は、ジャポニズムを思わせる、屏風絵や浮世絵の映像から始まる。そして、ピンカートンとシャープレスはカメラをぶらさげたツーリストのような雰囲気。それは、100年以上の時を超えて現代のインバウンドの感覚をも想起させる。紗幕を使ったシルエットと声だけで蝶々さんが登場するシーンにハッとさせられる。長崎の青い海、満天の星空などの自然や昼、夕、夜、朝の時間の推移を表す美術(映像・照明)が色彩的で美しく、日本的な美が新たな感覚で示されていた。
第1幕での田崎尚美の蝶々さんはドラマティックな声と明るいチャーミングさの共存。城宏憲のピンカートンは等身大のアメリカの青年。初めての夜のシーンでは、東西文化の違いによるとまどいがありながらも、若い欲情が勝っていく過程が自然に描かれた。
第2・3幕では、田崎が3年の月日で成長した蝶々さんの声を表現。「ある晴れた日に」の最後の「彼を待つ(l’aspetto)」での強靭な声に田崎の本領が表れた。そして、第3幕で彼女がすべての事情を把握した時の絶望とそれからの終結に向かっての歌唱及び表情がまさに迫真であった。城のピンカートンも「さらば愛の家」を熱唱。
最後に蝶々さんがついたての向こうで自刃するのは、ト書き通り。蝶々さんの最期をショーのように見せ場にする演出が多い中、佐藤が、プッチーニのオリジナルの意図を尊重し、彼女の死を見せ物にせずに終わらせたことに好感を持った。
スズキの林美智子、シャープレスの上江隼人らが好演。ケイトの日比野景が印象的な演唱。
アルミンクは、基本的には流れ良く音楽をすすめ、ここというところではたっぷりと聴かせるなど、起伏のある指揮で全体をリードした。
また、オペラ上演に先立つプレコンサートでは、アルミンクが「東海市子どものオーケストラ」を指揮して、マスカーニのオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を演奏。
東海市芸術劇場が初めて制作したオペラ公演で、劇場と市民との10年にわたる活動の豊かな実りに触れることができた。
(山田治生)
公演データ
東海市芸術劇場 開館10周年記念 プッチーニ:オペラ「蝶々夫人」
2月1日(日)15:00東海市芸術劇場 大ホール
指揮:クリスティアン・アルミンク
演出:佐藤 美晴
美術:杉浦 充
照明:高田 政義
衣装:臼井 梨恵
蝶々夫人:田崎 尚美
ピンカートン:城 宏憲
シャープレス:上江 隼人
スズキ:林 美智子
ゴロー:升島 唯博
ボンゾ:増原 英也
ヤマドリ:大久保 亮
ケイト/いとこ:日比野 景
ヤクシデ:安 賜勳 Johannes
役人:高柳 耕平
母:小林 芙未香
叔母:家根 侑里
役人の友人:横山 琢哉
村の人々/合唱:東海市民合唱団 [合唱指揮:横山琢哉]
村の子どもたち/下男:東海児童合唱団 [指揮・指導:磯部和恵]
芸者:東海市ダンスチームMiakot [NAO・Mami(Memorable Moment)]
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団
プログラム
プッチーニ:オペラ「蝶々夫人」
(原語上演・字幕付き)
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。










