第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025入賞者ガラ・コンサートin東京

それぞれが独自の音楽世界を示した特別なコンサート

昨年のショパン国際ピアノ・コンクールの入賞者ガラ・コンサートが東京で二日にわたって開催され、7人が出演してショパンの名曲を披露。その初日を聴いた。

まずは第6位のウィリアム・ヤンがノクターンOp.32の2曲を続けて弾いた。いずれも緩やかなテンポと柔らかなタッチによる、細部まで気配りの行き届いた密度の濃い演奏で弾き手の独自の音楽性が伝えられる。とくに2曲目のアパッショナート以後の緊迫感と劇的な展開が鮮やか。

ウィリアム・ヤン ©松尾淳一郎
ウィリアム・ヤン ©松尾淳一郎

続いて第5位のアレクセヴィチの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。「アンダンテ」のごく軽いタッチで奏でられる繊細かつ気品に満ちたフレージング、ポロネーズの力強く躍動感に満ちたリズム、カラフルな音色に対するアイデアなど実に聴かせる。

ピォトル・アレクセヴィチ ©松尾淳一郎

同位のヴィンセント・オンは本選の課題曲「幻想ポロネーズ」。力強く重みのあるサウンドで細部まで丁寧に弾き込み、和声の変化が印象深い。リリシズムと情熱、精神性と幻想性を併せ持ち、最後は劇的に盛り上がる。極度の緊張から解放されたからか、弾き終えてしばらくそのまま座り続けた。

ヴィンセント・オン ©松尾淳一郎
ヴィンセント・オン ©松尾淳一郎

第4位の桑原志織は「舟歌」。冒頭の低い嬰ハ音の柔らかく深みのある音。この一音で聴き手を曲に引き込む。ゆったりしたテンポでフレージングは洗練されているし、自然な表現とともに聴く者を包み込むような温かさと大きさを感じさせる。

桑原志織 ©松尾淳一郎
桑原志織 ©松尾淳一郎

前半最後は第2位ケヴィン・チェンの「英雄ポロネーズ」。リズムに緊張感があり、細部まで弾き手の強い意志が感じられ、改めて堅牢(けんろう)な技術と独自のスタイルを持つ表現者であることを強く印象づけた。前半が終わり、5人揃ってのカーテンコールに満場の聴衆から惜しみない拍手が送られた。

ケヴィン・チェン ©松尾淳一郎
ケヴィン・チェン ©松尾淳一郎
前半に登場した5人揃ってのカーテンコール ©松尾淳一郎
前半に登場した5人揃ってのカーテンコール ©松尾淳一郎

後半は第3位のワン・ズートンと第1位のエリック・ルーがそれぞれ協奏曲の第1番と第2番を弾いた。オーケストラは素朴で人間味溢れるワルシャワのサウンド。その管弦楽の提示部に続くソロは、輪郭のはっきりとした魅力的な音でフレーズをくっきり浮かび上がらせる。第2主題でテンポを落とすなど自在にアゴーギクを施すが、ヴィットの指揮とオーケストラが見事に対応。弱音器付きの弦の透明な弱音とともに奏でられる第2楽章が絶品。ゆったり構えて先を急がず、考え抜かれた音色とフレージングで弾き終えて余韻嫋々(じょうじょう)。終楽章は生き生きとして躍動感に満ち、どのフレーズにも個人的なものを感じさせる。

ワン・ズートン ©松尾淳一郎 
ワン・ズートン ©松尾淳一郎 

最後は優勝者ルーの第2番。タッチは華奢(きゃしゃ)、テクスチャーの明度が高く、随所に独自の表現が息づく。第2楽章ソロの弾き出しの、風がふわりと舞い上がるようなパッセージが美しい。フレーズに緊張感があり、中間部は翳(かげ)りを帯びて劇的な陰影をもたらす。その気分を引き継いで弾き始めたソロは表示通りの「素朴に、しかし優美に」。民族舞曲の野趣に溢れるオーケストラとともに、変化に富んだ味わい豊かな演奏を聴かせた。

エリック・ルーがピアノ協奏曲第2番を披露した ©松尾淳一郎
エリック・ルーがピアノ協奏曲第2番を披露した ©松尾淳一郎

卓越した表現力や洗練された音楽性、演奏の完成度の高さはいうまでもないが、どの演奏からも弾き手の個性豊かな音楽が聴こえてくる。音楽の内容の濃さ、充溢(じゅういつ)は他ではなかなか味わえない、まさに特別なコンサートだった。

(那須田務)

オーケストラとともに、変化に富んだ味わい豊かな演奏を聴かせたルー。他の演奏者も個性豊かな演奏を披露し、まさに特別なコンサートとなった ©松尾淳一郎 
オーケストラとともに、変化に富んだ味わい豊かな演奏を聴かせたルー。他の演奏者も個性豊かな演奏を披露し、まさに特別なコンサートとなった ©松尾淳一郎 

公演データ

第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025入賞者ガラ・コンサートin東京

1月27日(火)18:00東京芸術劇場 コンサートホール

ピアノ:
ウィリアム・ヤン、ピォトル・アレクセヴィチ、ヴィンセント・オン、桑原志織、ケヴィン・チェン、ワン・ズートン、エリック・ルー

指揮:アントニ・ヴィット
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

プログラム
ウィリアム・ヤン(第6位)
2つのノクターン Op.32より 第1番 ロ長調、第2番 変イ長調

ピォトル・アレクセヴィチ(第5位)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22

ヴィンセント・オン(第5位)
幻想ポロネーズ 変イ長調 Op.61

桑原志織(第4位)
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60

ケヴィン・チェン(第2位)
ポロネーズ第6番 「英雄」 変イ長調 Op.53

ワン・ズートン(第3位/ソナタ賞)
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11

エリック・ルー(第1位)
ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21

これからの他日公演
1月28日(水)18:00東京芸術劇場 コンサートホール(東京)
https://chopin.japanarts.jp/gala.html

1月29日(木)18:00ミューザ川崎 シンフォニーホール(神奈川)
https://kanagawa-geikyo.com/concert/concert-8301/

1月31日(土)13:30愛知県芸術劇場 コンサートホール(愛知)
https://chopin.japanarts.jp/gala_ngy.html

2月3日(火)19:30ソウル・アーツ・センター(韓国・ソウル)
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=74261

※プログラム等の詳細は、各主催者公式サイトをご覧ください。

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那須田 務

なすだ・つとむ

音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。

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