ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク指揮日本フィルハーモニー交響楽団 第414回横浜定期演奏会

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクが日本フィルを指揮してウィーンの香り漂う美しい響きを紡ぎ出した

ウィーン・フィル(WPH)のヴァイオリン奏者で室内楽、ソリストとしても活躍中のヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクが日本フィルの横浜定期に登場し、日本では初めて指揮を披露した。

日本フィルの横浜定期に登場したヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク。日本では初めての指揮となる Ⓒ山口敦
日本フィルの横浜定期に登場したヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク。日本では初めての指揮となる Ⓒ山口敦

公演のテーマは「ヴィリー・ボスコフスキーが指揮した作品を中心にウィーンの芳香を届ける」で、前半はウィーンで活躍したベートーヴェンとモーツァルトの作品。後半はWPHの往年の名コンサートマスターで1955年から79年までWPHニューイヤー・コンサートの指揮を務めたボスコフスキーによる55年のコンサートのプログラム前半をそのまま取り上げた。この企画意図についてヘーデンボルクが昨年秋、筆者の取材に応えて詳しく説明しているので(ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリニスト。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第1ヴァイオリン メンバー) | CLASSICNAVI)をご覧ください。

ヴィリー・ボスコフスキーのサイン入りLP。ボスコフスキーが日本フィルで指揮した際に書いたもの(提供:第2ヴァイオリン・豊田早織) Ⓒ山口敦
ヴィリー・ボスコフスキーのサイン入りLP。ボスコフスキーが日本フィルで指揮した際に書いたもの(提供:第2ヴァイオリン・豊田早織) Ⓒ山口敦

日本では初めての指揮とあってか1曲目、ベートーヴェンの「献堂式」序曲では少し緊張している様子で、丁寧ながらも慎重な指揮ぶり。しかし、オケはよく鳴っていた。彼は長年の経験からハーモニーを整えて、オケを鳴らす術(すべ)を自然に体得していることが伝わってくる音作りであった。
2曲目のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番でも慎重さは変わらず。ヘーデンボルクが弾き振りしたのだが、オケに向けてスコアを、客席に向けてはソロ・パートの楽譜を置いた譜面台を2台設えて演奏。どちらにも目をやることはほとんどなかったが、彼の音楽に対する真面目な姿勢が表れているかのよう。ウィーン風の優雅な響きをベースにした端正なモーツァルトであった。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番では、ヘーデンボルクが弾き振りした Ⓒ山口敦
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番では、ヘーデンボルクが弾き振りした Ⓒ山口敦

ここまでは想定の範囲内だったが、後半の〝ボスコフスキー・プロ〟から様相は一変した。日本フィルがWPHに変身したのではないか、と思われるほどの響きが紡ぎ出されたからである。ウィンナ・ワルツ、ポルカは聴き慣れたWPHの演奏が深く刻み込まれているせいか、それが例えベルリン・フィルであっても「何か違う」と感じることが多いのだが、この日はそうした違和感はまったくなく、音色、リズム運び、表情の付け方、どれをとっても本場ウィーンのような雰囲気を醸し出したのである。
全体にゆったりとしたテンポで旋律を優美に歌い上げていく。今年のニューイヤーで指揮を務めたヤニック・ネゼ=セガンもそうだったが、近年、軽快なテンポで現代的な歯切れよさが際立つ演奏が増えている。これに対してヘーデンボルクが日本フィルから導き出したのはボスコフスキーのような古き良き時代のスタイルといえよう。どちらが正解ということはないのだが、昔、WPHのコンマス経験者を取材した際に「ウィンナ・ワルツは踊りの音楽です。速すぎては踊れませんよ」と語っていたことを思い出した。その意味ではWPHに受け継がれ、今も息づいている〝ウィーン魂〟が発露された演奏であった。また、彼の指揮によるウィーン音楽を聴いてみたいものである。
(宮嶋 極)

コンサートマスターの木野雅之と Ⓒ山口敦
コンサートマスターの木野雅之と Ⓒ山口敦

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第414回 横浜定期演奏会

1月24日 (土)15:00 横浜みなとみらいホール

指揮&ヴァイオリン:ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:木野 雅之

プログラム
ベートーヴェン:「献堂式」序曲Op.124
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番ト長調K.216
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「我が人生は愛と喜び」Op.263
ヨハン・シュトラウスⅡ世:アンネン・ポルカOp.117
            :ポルカ・シュネル「浮き立つ心」Op.319
                                           :ワルツ「ウィーン気質」Op.354
                                           :ポルカ「帝都はひとつ、ウィーンはひとつ」Op.291
                                           :ワルツ「芸術家の生活」Op.316

アンコール
ヨハン・シュトラウスⅡ世:山賊のギャロップOp.378

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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