〝純粋器楽交響曲〟としての快演――都響の機能性と重層感を存分に生かしたショスタコーヴィチの10番
東京都交響楽団の12月の定期演奏会Aシリーズ。終身名誉指揮者・小泉和裕の指揮で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(独奏:三浦文彰)と、ショスタコーヴィチの交響曲第10番が披露された。
今回は、コンサートマスターが矢部達哉(ソロ・コンサートマスター)で、隣にやはりコンマスの水谷晃が並ぶ豪華な布陣。首席級を2人揃えた弦楽陣をはじめとする臨戦態勢は、かなりの気合を感じさせる。
まずはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。弦のしなやかさが光る序奏に続いて登場した三浦は、すこぶる艶やかで豊潤なソロを聴かせ、以後も完璧かつ雄弁な独奏が続く。第2楽章は憂いを湛えた歌がニュアンス豊かに流れゆき、第3楽章はソロの豊麗な音色が保たれた鮮やかな畳み込み。三浦の楽器=グァルネリ・デル・ジェス「カストン」は音が太く深く、極めて鳴りが良い。今回は、それも相まって、本作の〝器楽協奏曲〟としての醍醐味が過不足なく届けられた。
ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、スターリンその他様々な要素が取り沙汰される作品だが、小泉は純音楽的な演奏を展開。それは彼にゆかりの深いカラヤンの名盤を想起させた。
第1楽章は、出だしの湧き上がる弦の響きから耳を惹きつけ、以後は大仰さを排したストレートな表現がなされる。激しく高揚する箇所も拍節感を保ちながら衒(てら)いなく進行。クラリネットやフルートをはじめ皆が秀逸な管楽器のソロでも魅了する。
第2楽章はスタイリッシュにして鮮烈。急速なテンポで前へ前へと突き進む。第3楽章は、近年盛んに言われる「作曲者が恋心を抱いたエリミーラを表すホルンのフレーズ」がことさら強調されずに、精密な音楽表現がなされる。第4楽章は遅い部分を含めてスムーズなフィナーレを形成。ここも執拗なDSCH信号が突出することはない。
都響の機能性と重層感を存分に生かした〝純粋器楽交響曲〟としての快演。妙なおどろおどろしさのないこの演奏は、ショスタコーヴィチの10番が〝古典から続く名交響曲〟であることを如実に示すと同時に、都響の高い技量を改めて実感させるものでもあった。
(柴田克彦)
公演データ
東京都交響楽団 第1030回定期演奏会Aシリーズ
12月18日(木)19:00 東京文化会館 大ホール
指揮:小泉和裕
ヴァイオリン:三浦文彰
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
プログラム
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調 Op.93
他日公演
12月19日(金)14:00東京芸術劇場
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










