同じベクトルで音楽に向き合い師弟ならではの親密な音楽世界が創出されたキリル・ゲルシュタイン&藤田真央のデュオ・リサイタル
ロシア出身の名ピアニスト、キリル・ゲルシュタインと日本を代表する世界的ピアニスト、藤田真央によるデュオ・リサイタルを聴いた。
1曲目、シューベルトの創作主題による8つの変奏曲は1台のピアノの連弾で、1番パートをゲルシュタイン、2番を藤田が担当した。変イ長調(As-dur)の主題から柔らかで豊かなハーモニーが響きわたる。この作品の特徴である和声の移ろいが実に滑らかに表現され、2人の4手で弾いているにもかかわらず、まるで1人で弾いているかのような均質さは、さすが師弟デュオと感心させられるものであった。その後もコンサート全般にわたって強弱やテンポの変化、トリルの弾き方など2人の演奏は常に共通のベクトルのもと行われていた。
続くシューマンは2台のピアノでパート割りは1曲目と同じ。この作品でもフォルムを固めるというよりもハーモニーの構築に重きを置いたアプローチ。柔らかなタッチから幻想的な響きが創出され、2人の個性が反映されたシューマン像が描き出された。
3曲目、ラヴェルのラ・ヴァルスでは1・2番が入れ替わり少し速めのテンポで弾き進められる。たまたまこの日の午後、ウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーで編成されたフィルハーモニクスの公演でも同曲の編曲版を聴いたばかりで、その対比も興味深かった。フィルハーモニクスはワルツということで、やはりウィンナ・ワルツ的なリズム運びが随所に感じられたが、ゲルシュタイン&藤田の演奏はリズムよりはフランス的な和声の変化に光を当てたようなアプローチで、ここでも響きの美しさと細かい音符の粒立ちの鮮やかさが印象に残った。
後半1曲目、ブゾーニのモーツァルト「ピアノ協奏曲第19番」の終曲による協奏的小二重奏曲(①ゲルシュタイン、②藤田)は2人の粒立ちの美しさが一層映え、シンプルながらもキリリと引き締まった音楽作りは前半のハーモニー重視からギアを入れ替えたように感じられた。続くラフマニノフの交響的舞曲(①藤田、②ゲルシュタイン)もシンフォニックな要素を最大限引き出した表現の振幅が大きな演奏。力強さと流麗さを兼ね備え、変化に富んだ組み立ては多くの聴衆を満足させるものであった。
盛大な喝采に応えてアンコールを4曲も披露。特に3、4曲目のドヴォルザークのスラブ舞曲が洗練された抒情性を湛え、聴く者の心に優美に訴えかける秀演であった。
余談ではあるが、藤田は師との共演ということなのか、ステージへの入退場などの際、いつもの脱力感あふれた所作ではなく、心なしかピシッとしていたように見えたことも微笑ましかった。
(宮嶋 極)
公演データ
キリル・ゲルシュタイン×藤田真央 デュオ・リサイタル
12月9日(火)19:00 サントリーホール 大ホール
ピアノ:キリル・ゲルシュタイン、藤田 真央
プログラム
シューベルト:創作主題による8つの変奏曲変イ長調D.813
シューマン:アンダンテと変奏曲変ロ長調Op.46
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ブゾーニ:モーツァルト「ピアノ協奏曲第19番」の終曲による協奏的小二重奏曲K.459
ラフマニノフ:交響的舞曲Op.45
アンコール
ドビュッシー:リンダラハ L.97
ラフマニノフ:ピアノ連弾のための6つの小品Op.11より第4曲「ワルツ」
ドヴォルザーク:スラブ舞曲Op.72-2
ドヴォルザーク:スラブ舞曲Op.72-5
これからの他日公演
12月10日(水)19:00トッパンホール
12月13日(土)15:00所沢市民文化センター ミューズ
12月14日(日)14:00三鷹市芸術文化センター 風のホール
12月16日(火)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール
12月18日(木)19:00熊本県立劇場 コンサートホール
12月19日(金)19:00上野学園ホール(広島)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










