サントリーホール ARKクラシックス〔公演11〕 ARK クロージング・ナイト

サントリーホール ARKクラシックスのフィナーレを飾る豪華ソリストたちの競演

3日から開催されていたサントリーホール ARKクラシックスが7日、ブルーローズで行われたARKクロージング・ナイトをもって閉幕した。5日間でサントリーホールの大ホールとブルーローズを会場に全11公演が開催された。また、ホール前のアーク・カラヤン広場ではステージの模様をリラックスしたスタイルで鑑賞できるパブリック・ビューイングも連日実施され、多くの観客・聴衆が思い思いのスタイルで演奏を楽しんだ。

濃密な表現でブラームスのピアノ五重奏曲を奏でた(左から)ズーカーマン、三浦、清水、ローゼマン、鈴木 撮影:堀田力丸
濃密な表現でブラームスのピアノ五重奏曲を奏でた(左から)ズーカーマン、三浦、清水、ローゼマン、鈴木 撮影:堀田力丸

クロージング・ナイトにはこの音楽祭のアーティスティク・リーダーを務めるヴァイオリニストの三浦文彰、ピアニストの辻井伸行に加えてスペシャル・ゲストとしてヴァイオリンはもとよりヴィオラ、指揮の〝三刀流〟の活躍をみせたピンカス・ズーカーマン、清水和音(ピアノ)、セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)、高木綾子(フルート)、鈴木康浩(ヴィオラ)、ヨナタン・ローゼマン(チェロ)といった内外の腕利きプレイヤーが出演し、ガラ・コンサートの趣きで華やかにフィナーレを彩った。

プーランクでは高木のフルートに柔軟な辻井のピアノが寄り添う 撮影:堀田力丸
プーランクでは高木のフルートに柔軟な辻井のピアノが寄り添う 撮影:堀田力丸

プログラム前半は辻井がソロ、伴奏の両面で多彩な演奏を繰り広げ、大きな喝采を集めた。ドビュッシーのベルガマスク組曲では素直な表現が聴く者の心に沁(し)みわたる。スラーを伴う細かい音符が美しい旋律線を描き出すなど随所で辻井の洗練されたセンスが光った。一方、高木がソロを務めたプーランクのフルート・ソナタでは、辻井はドビュッシーとはひと味違うテイストで柔軟に独奏を支え、ナカリャコフのスーパー・テクニックに対しては軽快なタッチで音楽に生命感を宿らせるなど、さまざまな局面に適宜対応する演奏ぶりに彼の成熟が表れていた。それにしてもナカリャコフの超絶テクにも毎回驚かされる。なぜ、同時に2つの音を出せるのか、それも事も無げに易々と。

人並外れたテクニックで魅了したナカリャコフ 撮影:堀田力丸
人並外れたテクニックで魅了したナカリャコフ 撮影:堀田力丸

後半はズーカーマン、三浦、鈴木、ローゼマン、清水の5人によるブラームスのピアノ五重奏曲ヘ短調。ズーカーマンのリードのもと少し遅めのテンポでじっくりと弾き進められていく。楽想を掘り下げて作品の本質に真正面から迫っていくようなスタイル。ズーカーマンと三浦は弓をあまり速く動かさずに楽器をタップリと鳴らす。出色だったのは鈴木のヴィオラ。正確な音程で時折、朗々と歌うなどして世界のトップ・ヴァイオリニストのひとりであるズーカーマンにも勝るとも劣らない存在感を示した。アンサンブル全体も濃密な表現の連続で、ブラームスに相応しいロマンの香りが漂う秀演であった。

(宮嶋 極)

師弟共演でアンサンブルを奏でた名手ズーカーマンと三浦 撮影:堀田力丸
師弟共演でアンサンブルを奏でた名手ズーカーマンと三浦 撮影:堀田力丸

公演データ

サントリーホール ARKクラシックス〔公演11〕
ARK クロージング・ナイト

10月7日(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ

ピアノ:辻井伸行/清水和音
トランペット:セルゲイ・ナカリャコフ
フルート:高木綾子
ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン/三浦文彰
ヴィオラ:鈴木康浩
チェロ:ヨナタン・ローゼマン

ルクレール:2つのヴァイオリンのためのソナタホ短調Op. 3-5
ドビュッシー:ベルガマスク組曲~前奏曲、メヌエット、月の光、パスピエ
プーランク:フルート・ソナタ
アーバン:ヴェニスの謝肉祭による変奏曲
チャイコフスキー:ナポリの踊り
ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調Op. 34

※サントリーホール ARKクラシックス他日公演の詳細は、公式サイトをご参照ください。
https://avex.jp/classics/arkclassics2025/

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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