アダム・ヒコックス指揮 東京交響楽団 第733回 定期演奏会

日本デビューとなるアダム・ヒコックスが東響とともに鮮やかに大作を描き切る

アダム・ヒコックスが東京交響楽団に客演した。アダムは、往年の名指揮者リチャード・ヒコックスの息子(1996年生まれ)。今秋のトロンハイム交響楽団首席指揮者就任が決まっている俊英。日本のオーケストラを指揮するのは今回が初めてである。

アダム・ヒコックス指揮 東京交響楽団 第733回 定期演奏会
アダム・ヒコックス指揮 東京交響楽団 第733回 定期演奏会

まずは、リャードフの交響詩「魔法にかけられた湖」。ヒコックスは、丁寧な指揮で、作品を繊細に淡く美しく描く。ゆったりとした音楽だが、停滞しない。この1曲だけで彼の才気を感じた。

続いて、谷昂登を独奏者に迎えて、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。谷は洗練された美しい演奏(とりわけ第2楽章)を披露。テクニックが冴(さ)え、緻密で、クールなところもある。そして最後はスケールの大きさも示す。ヒコックスは伴奏に終わらず、ときには主張も。若者同士が火花を散らし合うような瞬間もあった。谷はアンコールでチャイコフスキーの「四季」より10月〝秋の歌〟を弾いた。これもとても洗練された演奏であった。

演奏会の後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第10番。ヒコックスの指揮は明晰(めいせき)で、キレが良く、音楽の流れが良い。ドミトリー(DSCH)とエルミーラ(EAEDA=ELaMiReA)の関係が印象に残った。オーケストラは、ホルンや木管楽器のソロが魅力的。そういえば、1954年にショスタコーヴィチの交響曲第10番の日本初演を行ったオーケストラが東響であり、彼らは、2016年に音楽監督ジョナサン・ノットとこの曲をヨーロッパに持って行き、ウィーン楽友協会大ホールでも披露している。東響にとって自信のレパートリーに違いない。指揮者が第2楽章などでどんなに快速テンポをとっても、演奏に安定感があった。アダム・ヒコックスは、鮮やかに大作を描き切り、目覚ましい日本デビューを飾った。
(山田治生)

公演データ

東京交響楽団 第733回 定期演奏会

8月23日(土)18:00サントリーホール 大ホール

指揮:アダム・ヒコックス
ピアノ:谷昂登
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:小林壱成

プログラム
リャードフ:交響詩「魔法にかけられた湖」Op.62
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番ハ短調 Op.18
ショスタコーヴィチ:交響曲 第10番ホ短調 Op.93

ソリスト・アンコール
チャイコフスキー:「四季」より10月〝秋の歌〟 

※他日公演
8月24日(日)17:00りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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