三浦文彰のみずみずしい感興に呼応した活気あふれるステージ
ARKフィルハーモニックは三浦文彰と辻󠄀井伸行を中心に、国内の有力奏者らで作るオーケストラ。今回は3つのプログラムを携えて、全国8か所を回るツアーに入った。初日の東京オペラシティ公演は、フルートの高木綾子、ハープの吉野直子を招いたAプロで、若々しい活気あふれるステージとなった。

指揮はアーティスティック・ディレクターの三浦が務め、前半1曲目は高木と吉野がソリストのモーツァルト「フルートとハープのための協奏曲」。楽団の編成は弦楽器の人数を第1ヴァイオリンから8-6-4-4-3と刈り込んだパターンで、反応の速いスッキリした響きが志向された。その結果、独奏の音がマスクされずに、くっきり浮かび上がり、良好なバランスがもたらされた。
玲瓏(れいろう)な音色を軽やかに飛翔させる高木、宝石のようにクリアーなきらめきを放散する吉野と、両者の卓越した語らいを、三浦はみずみずしい感興をもってバックアップ。涼風が吹き抜けるように爽快なアンサンブルを率いて、会場を幸福感で満たした。

続くチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番にはレジデント・ピアニストの辻󠄀井伸行が登場。おはこと言うべき作品だけに、辻󠄀井は終始自信にあふれ、豪快に曲の魅力を明らかにした。その一方で作品のディテールや構成感にも気を配り、打鍵を適切にコントロールして硬質な叙情や粒立ちよい輝きを披露。単に指が回る速さを競うのではなく、表現の深度でみずからの芸境を示した。
14型に拡大されたオーケストラから、三浦は重心の低いパワフルな音を引き出した。時にティンパニを強打させるなどアクセントをつけ、ゴージャスな色合いを表出。1曲目でソリストだった高木が首席フルート奏者に回り、第2楽章冒頭のソロなど見せ場で存在感を放った。

後半はブラームスの交響曲第1番ハ短調。三浦と当楽団は昨年、デビューCDで交響曲第2、4番を出したばかりで、この作曲家に入れ込んでいる。第1楽章冒頭から堂々たる厚みを帯びた熱量の高いうねりを形成。フレージングは歯切れ良く、てらいのないオーソドックスな造形を通じて壮健な推進力をみせた。
第2楽章で三浦は指揮棒を左手に持ち替え、右手でしなやかな流動感を演出。コンサートマスターの三浦章宏が美麗なソロを取り、父子共演がめでたく実を結んだ。ホルンの信末碩才、オーボエの荒川文吉といった在京楽団でトップを務める実力者の技も冴(さ)え、舞台を引き締めた。
(深瀬満)

公演データ
辻󠄀井伸行 三浦文彰 ARKフィルハーモニック
8月1日(金)14:00東京オペラシティ コンサートホール
指揮:三浦文彰
フルート:高木綾子
ハープ:吉野直子
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ARKフィルハーモニック
コンサートマスター:三浦章宏、高橋和貴、松浦奈々
プログラム
モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調K299(297c)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調Op.23
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調Op.68
ソリスト・アンコール(辻󠄀井伸行)
ワーグナー/リスト編:エルザの大聖堂への行列
※他日公演
8月2日(土)14:00オーバード・ホール(富山)A
8月3日(日)15:00サントミューゼ(長野) A
8月6日(水)18:30アルカスSASEBO(長崎)C
8月8日(金)19:00上野学園ホール(広島)C
8月9日(土)15:00福岡シンフォニーホール(福岡)B
8月10日(日)15:00ザ・シンフォニーホール(大阪)B
8月11日(月・祝)13:30愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)B
Aプログラム
モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調K299(297c)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調Op.23
ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68
指揮:三浦文彰
フルート:高木綾子
ハープ:吉野直子
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ARKフィルハーモニック
Bプログラム
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219「トルコ風」
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調Op.67「運命」
指揮・ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ARKフィルハーモニック
Cプログラム
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調Op.64
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調「皇帝」Op.73
指揮・ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ARKフィルハーモニック

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。