デリヤナ・ラザロヴァ指揮 読売日本交響楽団 第279回日曜マチネーシリーズ

ラザロヴァ日本デビューとモーツァルト未完協奏曲の国内初演──注目の読響公演

ブルガリア出身で数々のコンクールに入賞し、欧米の主要オーケストラに客演して成功を収めてきた若手指揮者、デリヤナ・ラザロヴァが日本デビューを果たした。

今回日本デビューとなるデリヤナ・ラザロヴァが指揮台に立った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
今回日本デビューとなるデリヤナ・ラザロヴァが指揮台に立った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

冒頭は、ラザロヴァと同郷の作曲家タバコヴァ「オルフェウスの彗星」(2017年)。ホルンと弦による粒子のような反復に始まり、モンテヴェルディの歌劇「オルフェオ」冒頭のトッカータが輝かしく現れ、作品を締めくくる。作品集を録音しているラザロヴァは、読響からまばゆい色彩感を引き出した。

続いて、ベルリン・フィル首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーが、モーツァルト「オーボエ協奏曲 ヘ長調」K.293(G.オダーマット補筆版)の日本初演を行った。1778年マンハイムで着手され、第1楽章の一部を残して未完となった作品を、オダーマットがマイヤーの協力を得て全3楽章に補筆完成させた。
第1楽章の優雅な主題をマイヤーは繊細なニュアンスで滑らかに歌い、ラザロヴァと読響も流麗な演奏で応えた。カデンツァではマイヤーの華やかな技巧が冴えた。哀愁漂う第2楽章、陽気な第3楽章はオダーマットの作曲だが、様式的な違和感はなく、それぞれのカデンツァも表情豊かだった。

モーツァルトのオーボエ協奏曲では、ベルリン・フィル首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーがソリストを務めた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
モーツァルトのオーボエ協奏曲では、ベルリン・フィル首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーがソリストを務めた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

アンコールでは、マイヤーが「日下紗矢子さんとの対話をお楽しみください」と達者な日本語で挨拶。弦の首席たちを伴い、日下とのデュオでJ.S.バッハのカンタータ「わがうちに憂いは満ちぬ」より〝シンフォニア〟をしっとりと奏でた。拍手が鳴りやまず、最後は無伴奏で「ミサ曲 ロ短調」より〝父の右に坐したもう主よ〟を演奏し、静謐(ひつ)な余韻を残した。

交響組曲「シェエラザード」では、ラザロヴァが読響を巧みに統率し、バランスに優れた表情豊かな演奏を実現した。とりわけ第4楽章「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破、終曲」では、リムスキー=コルサコフの精緻かつ絢爛な管弦楽法を見事に生かし、その実力を存分に示した。祭りの主題が高揚を導き、荒れ狂う海と船の難破は、トロンボーンなど金管を中心に生々しい迫力で描かれ、圧倒的なエネルギーがホールを満たした。

交響組曲「シェエラザード」では、ラザロヴァが読響を巧みに統率し、バランスに優れた表情豊かな演奏を実現した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
交響組曲「シェエラザード」では、ラザロヴァが読響を巧みに統率し、バランスに優れた表情豊かな演奏を実現した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

各奏者のソロもラザロヴァの指揮を支えた。なかでも最大の立役者は、知的で美しいシェエラザード像を浮かび上がらせたコンサートマスターの日下紗矢子。オーケストラ全体もその美音に導かれていた。
チェロ首席の遠藤真理をはじめ、ファゴットの古谷拳一、クラリネットの中舘壮志、オーボエの荒木奏美、フルートのフリスト・ドブリノヴら木管勢もそれぞれに存在感を示し、ハープの景山梨乃も華やかな音色で舞台を彩った。

ラザロヴァが読響の力を十全に発揮させたこの公演は、日本デビューとして申し分ない成果を上げたと言える。
(長谷川京介)

公演データ

読売日本交響楽団 第279回日曜マチネーシリーズ

7月20日(日)14:00東京オペラシティ コンサートホール

指揮:デリヤナ・ラザロヴァ
オーボエ:アルブレヒト・マイヤー
管弦楽:読売日本交響楽団
特別客演コンサートマスター:日下紗矢子

プログラム
ドブリンカ・タバコヴァ:オルフェウスの彗星
モーツァルト:オーボエ協奏曲 ヘ長調 K.293(G.オダーマット補筆版)
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」Op.35

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:カンタータ「わがうちに憂いは満ちぬ」BWV21より〝シンフォニア〟
J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調BWV232アリア〝父の右に坐したもう主よ〟

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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