輝かしいサウンド、舞曲の喜び~アーク・ブラスによるルネサンス金管合奏の魅力
アーク・ブラスは佐藤、福川、青木、次田をコアメンバーとして随時メンバーを加える方式を採る、在京のプロ・オーケストラのメンバーや国内外のコンクールの受賞者たちからなる金管楽器のドリーム・アンサンブル。そんな彼らが、新たにリリースしたディスク「ARK BRASS BAROQUE」の発売記念コンサートを行った。彼らが結成時から最大のリスペクトを贈るイギリスの伝説的金管アンサンブル、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルが得意とした、ルネサンス音楽を中心とするプログラムである。

第1部はイギリスの作曲家バードの行進曲から。暗闇の中でドラムが打ち鳴らされ、金管十重奏のファンファーレで一気に舞台が明るくなる。ここからコアメンバーらの五重奏で「ルネサンス組曲」の3曲。この時代の合奏曲は主に多声の対位法的音楽(ファンタジア)や舞曲だが、アグリコラの〝悲しみを忘れたい〟のトロンボーンやテューバの柔らかな音と歌い回しが快く、ヴェッキの〝サルタレッロ〟はきびきびとしたテンポでリズムが生き生きとはじける。この日唯一の初期バロックの作曲家シャイトの〝戦いの組曲〟の3曲も舞曲。とりわけガイヤルドは跳躍ダンスの特徴が示され、自然と心がうきうきしてくる。十重奏と打楽器による「フランス・ルネサンス舞曲集」は空想の舞踏会のよう。ピッコロ・トランペットが高らかに舞踏会の開始を告げ、緩急のダンスが交互に奏でられる。

第2部はイギリスのファーナビーの鍵盤音楽。ハワースの編んだ「空想・おもちゃ・夢」から4曲と、石川亮太の編曲による組曲から3曲。いずれも五重奏+打楽器版だ。太鼓のリズムも軽やかな〝古いスパニョレッタ〟、トランペット2本がメランコリックな旋律を掛け合う〝話してダフネ〟、各楽器が上行のパッセージを重ねていく〝前奏曲〟が印象的で、トゥッティのサウンドはアーク唯一のものだろう。
イングランド国王ヘンリー8世の組曲「棘のないバラ」も金管五重奏。第3曲のフリューゲルホルンとトランペットの掛け合いが快く、第4曲は各人の名人芸が冴える。最後は十重奏+打楽器、金管合奏の定番「スザート組曲」だ。一曲目の〝ムーア人の踊り〟でブラスの輝かしく重厚なサウンドがホールいっぱいに鳴り響く。〝4つのブランル〟のトランペットの夢見るような歌い回し、〝ロンド〟は楽器間の掛け合いから壮大な総奏に。リズムの愉悦に満ちた〝バス・ダンス〟、トロンボーン・アンサンブルを背景にしたホルンの「歌」が美しい〝わが友〟、そして、勇壮な〝戦いのパヴァーヌ〟でコンサートを終えた。曲間の佐藤らの軽妙なお喋りも楽しく、ルネサンスの金管合奏(コンソート)の魅力を味わい尽くした一夜だった。
(那須田務)

公演データ
ARK BRASS 〝BAROQUE〟
6月23日(月)19:00浜離宮朝日ホール
トランペット:佐藤友紀、長谷川智之、尹千浩、松山萌、
ホルン:福川伸陽
トロンボーン:青木 昂、髙瀨新太郎、住川佳祐、黒金寛行
テューバ:次田心平
パーカッション:秋田孝訓
プログラム
1st Stage
バード(ハワース編):「オックスフォード伯爵の行進曲」
フランソワ、アグリコラ、ヴェッキ(ハーバート、ハワース編):「ルネサンス組曲」
シャイト(ジョーンズ編):「戦いの組曲」
ジェルヴェーズ&アテニャン(リーヴ編):「フランス・ルネサンス舞曲集」
2nd Stage
ファーナビー(ハワース編):「空想・おもちゃ・夢」
ファーナビー(石川亮太編):「ヴァージナルの終りなき夢」
ヘンリー8世(ハワース編): 組曲「棘のないバラ」
スザート(アイヴソン編):「スザート組曲」
アンコール
J.S.バッハ(石川亮太編):「G線上のアリア」
J.S.バッハ(Christpher Mowat編):「ブランブルク協奏曲」第3番第3楽章

なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。