佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 第662回定期演奏会

平和への祈り~バーンスタインのメッセージを伝えた感動的な「カディッシュ」

佐渡裕&新日本フィルハーモニー交響楽団の3シーズン目のオープニングは、佐渡の師であるバーンスタインの交響曲第3番「カディッシュ」をメインとするプログラム。佐渡はこれまでに「カディッシュ」を2度CD録音(フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、及び、トーンキュンストラー管弦楽団と)するなど、同曲を十八番のレパートリーとしている。「カディッシュ」では、全編にわたってバーンスタイン自身によるテキスト(今回は松岡和子訳による日本語版を使用)が語られるが、その語り手を大竹しのぶが務めた。

佐渡裕の十八番であるバーンスタインの交響曲第3番「カディッシュ」を演奏。大竹しのぶが語り手を務めた ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より
佐渡裕の十八番であるバーンスタインの交響曲第3番「カディッシュ」を演奏。大竹しのぶが語り手を務めた ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より

そのほか、高野百合絵(ソプラノ)、晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊が参加。佐渡は確信に満ちた指揮。語り手への合図出しもすべて佐渡が行う。オーケストラも鮮明。大竹は、真摯に毅然と神に語りかけた。高野は子守歌にふさわしい優美であたたかみのある歌唱。晋友会合唱団(ときに、手拍子を入れたり、複数のメンバーの指揮とともにカオスを作り出したり)も東京少年少女合唱隊も難易度の高い楽譜を見事に再現。オーケストラは、ヴィオラが「虹」の旋律を奏で始め、大竹の語りとともに高揚。バーンスタインの「(世界を)共に創りなおそう!」というメッセージが伝わってくる感動的なクライマックスが築き上げられた。

高野百合絵(ソプラノ・右)の歌唱には、子守歌にふさわしい優美であたたかみがあった ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より
高野百合絵(ソプラノ・右)の歌唱には、子守歌にふさわしい優美であたたかみがあった ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より

演奏会の前半には、ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番とバーンスタインの「ミサ」から3つのメディテーションが演奏された。「レオノーレ」序曲第3番と「カディッシュ」の2曲は、1985年にバーンスタインが終戦40周年を記念してECユースオーケストラとともに広島で開催した平和コンサートのプログラムからの選曲。あれからさらに40年が経ったのかと思う。「レオノーレ」序曲第3番は序奏から重くて深い音。オペラ「フィデリオ」での、監禁からの解放、正義の勝利を想起させる演奏となった。それは、まさにベートーヴェンやバーンスタインの精神を受け継ぐものといえる。「メディテーション」ではチェロの櫃本瑠音が独奏を務めた。弓の毛が弦に吸い付くような密度の高い音でしなやかに歌う。アンコールのマーク・サマーの「ジュリー・オー」とともに才気あふれる演奏を聴かせてくれた。

(山田治生)

「メディテーション」ではチェロの櫃本瑠音が独奏を務めた ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より
「メディテーション」ではチェロの櫃本瑠音が独奏を務めた ©堀田力丸 ※写真は4/19(土)すみだトリフォニーホールで行われた同内容公演より

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 第662回定期演奏会

4月20日(日)14:00サントリーホール 大ホール

指揮:佐渡裕
朗読:大竹 しのぶ
チェロ:櫃本 瑠音
ソプラノ:高野百合絵
合唱:晋友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙、伝田正秀

プログラム
ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番ハ長調Op.72b
バーンスタイン:「ミサ」から3つのメディテーション
バーンスタイン:交響曲第3番「カディッシュ」

ソリスト・アンコール(チェロ)
マーク・サマー:ジュリー・オー

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

連載記事 

新着記事