パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団 第2035回定期公演Bプログラム

パーヴォ得意の20世紀ものプログラムで、精彩に満ちた快演を披露

2年ぶりにNHK交響楽団に登場した名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィは、二つめの演目のBプログラムでストラヴィンスキー、ブリテン、プロコフィエフと、得意にする20世紀ものに腕を振るった。この手のちょっと尖った演目ではパーヴォ最良の面が出やすい。N響とのコンビネーションは万全で、先週末のAプログラムに引き続いて精彩に満ちた快演を聴かせてくれた。

名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、20世紀ものプログラムを披露した 写真提供:NHK交響楽団
名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、20世紀ものプログラムを披露した 写真提供:NHK交響楽団

前半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」全曲(N響のプログラム表記はペトルーシカ)。3管編成による1947年版がパーヴォのお好みで、最後は演奏会用の華麗なエンディングではなく、静かに終わる通常の結尾が採られた。
パーヴォは全体に速いテンポで一気呵成に突き進み、ややドライな現代感覚あふれる解釈を披露。重心の高いきらびやかな響きによって、ロシアの土俗性より都会風の洗練を前面に出した。管楽器の内声部まで解像度が高く、バランスの作りが非凡だ。
初演時にパリを席捲した縁を思わせるフランス風の軽妙な色彩感によって、バレエ音楽というよりオーケストラ・ピースとしての性格を強調。N響の水際立った合奏能力と、各奏者の名人芸が大いに貢献した。
いわゆる「オケ中ピアノ」には松田華音をわざわざ起用。指揮者の目前で切れの良い妙技を披露して、演奏を引き立てた。

オケ中ピアノに、松田華音を起用。パーヴォの目前で演奏した 写真提供:NHK交響楽団
オケ中ピアノに、松田華音を起用。パーヴォの目前で演奏した 写真提供:NHK交響楽団

後半の幕開けは英国のピアニスト、ベンジャミン・グローヴナーを迎えたブリテンのピアノ協奏曲。ひねりが効いた若書きの大胆な曲想を、パーヴォは心底楽しむようにリード。乾いたモダニズムが奔流のようにあふれ出した。グローヴナーは作品をよく手の内に収めており、随所に顔をみせる諧謔性を壮快に引き出してみせた。実演を聴けるチャンスは少ないので、貴重な体験になった。

ブリテンのピアノ協奏曲のソリストは英国のピアニスト、ベンジャミン・グローヴナー 写真提供:NHK交響楽団
ブリテンのピアノ協奏曲のソリストは英国のピアニスト、ベンジャミン・グローヴナー 写真提供:NHK交響楽団

こういう流れだと、最後のプロコフィエフ交響組曲「3つのオレンジへの恋」がパーヴォの趣向に最もマッチした。歌劇から抜粋された6曲それぞれの場面の描写や演出が巧妙で、水を得た魚のように生き生きとした合奏がホールを満たした。木管からは爽快なリリシズムがわき上がり、涼やかな感触を残した。

(深瀬満)

公演データ

NHK交響楽団 第2035回定期公演Bプログラム

4月17日(木)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ:ベンジャミン・グローヴナー(ブリテン)
ピアノ:松田華音(ストラヴィンスキー)
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原幸太

プログラム
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(全曲/1947年版)
ブリテン:ピアノ協奏曲 Op.13
プロコフィエフ:交響組曲「3つのオレンジへの恋」Op.33bis

他日公演:4月18日(金)19:00サントリーホール 大ホール、20日(日)15:30Bunkamuraオーチャードホール

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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