高関健指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第377回定期演奏会

細部まで目配りされながら曲全体が見事に構築された出色の名演

高関健とのコンビ10年目を締めくくる東京シティ・フィルの定期演奏会。高関は同楽団のクオリティを目覚ましく向上させた上に、シーズン最後の定期で取り上げる大作では特筆すべき演奏を聴かせている。今回はヴェルディの「レクイエム」。2021年3月にコロナ禍で上演を断念した一同念願の演目だけに期待はより大きい。

今シーズンの締めくくりとして、コロナ禍で上演を断念したヴェルディ「レクイエム」に臨んだ常任指揮者の高関健 撮影:越間有紀子
今シーズンの締めくくりとして、コロナ禍で上演を断念したヴェルディ「レクイエム」に臨んだ常任指揮者の高関健 撮影:越間有紀子

結論から言うと、細部まで目配りされながら曲全体が見事に構築された出色の名演だった。弦楽器は繊細に、管楽器は瑞々しく音を紡ぎ、木管をはじめとする微細なフレーズが再三新感触をもたらす。独唱者たちは、アリア風の楽曲を朗々と、宗教色の濃い楽曲を粛然と歌い、東京シティ・フィル・コーアは、アマチュアとは思えないほどコントロールの効いた、抑揚の大きな合唱を展開。この曲の生演奏でしばしば不満に思うのが、「怒りの日」に始まる第2曲を盛り上げ過ぎて後半が平板になってしまう点と、独唱者がオペラティックな楽曲で抑制を効かせ過ぎてヴェルディの良さが半減する点だが、本演奏はそれらを全く感じさせない。

東京シティ・フィル・コーアは、コントロールの効いた、抑揚の大きな合唱を展開した 撮影:越間有紀子
東京シティ・フィル・コーアは、コントロールの効いた、抑揚の大きな合唱を展開した 撮影:越間有紀子

第1曲は極めてデリケートに開始。第2曲最初の「怒りの日」は迫力十分ながらも、弱音部分の細かな動きが新鮮に明示され、次の「驚くべくラッパが」のオルガン左右のバンダを含めたトランペットの異例にソフトな吹奏が、前半の抑制効果をもたらす。その後の独唱場面は楽曲の性格に即した多様な歌い回しがなされ、有名なテノールの独唱はまさにオペラ・アリア風。独唱陣ではこの笛田博昭の堂々たる歌声が特に印象的だった。しかもそれが浮くことがないのも高関の巧みな設計ゆえだろう。そして第2曲最後の「涙の日」がじんわりとした感動を与え、以下同様に進行。第3曲から終曲まで終始緊張感が保たれる。最後の「リベラ・メ」の曲調変化もごく自然で説得力十分だ。

中央左から青山貴(バリトン)、笛田博昭(テノール)、加納悦子(メゾ・ソプラノ)、中江早希(ソプラノ) 撮影:越間有紀子
中央左から青山貴(バリトン)、笛田博昭(テノール)、加納悦子(メゾ・ソプラノ)、中江早希(ソプラノ) 撮影:越間有紀子

高関はプレトークで「ドン・カルロ」等との繋がりや楽器法について語っていたが、今回はまさしく同オペラを彷彿させる局面が多いことに気付かされたし、ファゴットを4本用いた意味も実感させられた。高関(&シティ・フィル)ならではの特色が詰まったこの演奏は、本作の真の(あるいは隠れた)魅力を顕示したと言っても過言ではない。

(柴田克彦)

公演データ

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第377回定期演奏会

3月8日(土)14:00東京オペラシティ コンサートホール
指揮:高関 健(常任指揮者)
ソプラノ:中江 早希
メゾ・ソプラノ:加納 悦子
テノール:笛田 博昭
バリトン:青山 貴
合唱:東京シティ・フィル・コーア
合唱指揮:藤丸 崇浩
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

プログラム
ヴェルディ:レクイエム

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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