サカリ・オラモ指揮 ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団 日本ツアー 東京公演

リリカルな詩情に満ちた藤田真央のシューマン、人間味溢れるケルンのオーケストラの奏でるマーラー

「ケルンWDR交響楽団は上手い、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団は面白い」とよく言われる。ともにケルン市に拠点を置くが、州をカヴァーする前者に対して、ケルン歌劇場のオーケストラでもある後者は、カペルマイスター(音楽監督と同義語)がケルン市の音楽総監督(GMD)を務めるなど、同市とより密接に結びついていて、ケルン子から我らが町のオーケストラと親しまれている。もちろん先の話は技術の優劣ではない。ギュルツェニヒ管弦楽団の演奏は人間味に富んで何が出て来るのか分からない面白さがあり、それが大きな魅力になっているのだ。そんなケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団がアーティスティック・パートナーのサカリ・オラモと来日。その初日公演は藤田真央がシューマンの協奏曲を弾くとあって、発売日早々にチケットが完売という盛況ぶりである。

ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団アーティスティック・パートナーのサカリ・オラモ ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団アーティスティック・パートナーのサカリ・オラモ ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ

前半のシューマンの協奏曲。藤田のはじけるようなパッセージ、木管の主題に続くピアノの奏でる主題の蕩(とろ)けるように柔らかなタッチ、それに弦が温かく柔らかな音色とフレージングで応える。緊張と弛緩(しかん)、緩急の差が大きく、藤田の抑揚のあるソロに、オラモが濃(こま)やかな心配りで合わせる。第2楽章のソロは繊細でリリカルな詩情に満ち、弦の奏でる旋律はどこまでも長く美しい。終楽章もソロはすばらしい集中力としなやかなパッセージワークで、軽やかな精神を感じさせて爽快このうえない。万雷の拍手のなかをいつものように飄々(ひょうひょう)とした物腰でステージを行き来し、アンコールにグラズノフの練習曲を熱演した。

シューマンのピアノ協奏曲でソリストを務めた藤田真央 ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ
シューマンのピアノ協奏曲でソリストを務めた藤田真央 ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ

マーラーの第5番は、作曲者が自らの指揮で同団と初演した縁のある作品。第1楽章冒頭、トランペットのソロからffの和音に至る1小節間のクレッシェンドが凄まじい。弦は柔らかい音色を基本としてフォルテは重厚。デュナーミクや静と動の変化など、総譜が細部まで丁寧に扱われ、時にエキセントリックな激しさ。第2楽章も強弱や音色、情感が印象深く示され、指揮者の手の動きにオーケストラが見事に反応。人間的な情感の率直な表現が好ましい。トランペットのソロと同様、第3楽章のオブリガートホルンも音の密度が高い。第4楽章の主題は濃やかなアゴーギクとともに深い哀愁が漂い、終楽章はフーガを始めとして、どのフレーズも生き生きとして人間的な歌に溢(あふ)れると同時に、全体の見晴らしがよく、最後に解放感溢れる圧巻のフィナーレを迎えた。アンコールは〝ロザムンデ〟間奏曲第3番。弦の最弱音の豊かな響きと心の震えを伝えるフレージング、木管との繊細な対話がすばらしく、同団の魅力を堪能した。
(那須田務)

マーラーの第5番では、人間的な歌に溢れるフレーズを聴かせた ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ
マーラーの第5番では、人間的な歌に溢れるフレーズを聴かせた ©︎池上直哉/提供:ジャパン・アーツ

公演データ

ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団 日本ツアー 東京公演

2月10日(月)19:00サントリーホール

指揮:サカリ・オラモ
ピアノ:藤田真央
管弦楽:ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

プログラム
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

ソリスト・アンコール
グラズノフ:3つの練習曲Op.31-2

オーケストラ・アンコール
シューベルト:劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」間奏曲 第3番アンダンティーノ

※来日ツアーのその他の公演日程、プログラム等の詳細については、下記ホームページをご参照ください。

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那須田 務

なすだ・つとむ

音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。

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