佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 第660回定期演奏会

全パートが最高度のパフォーマンスを発揮!渾身のマーラー「9番」

佐渡裕の音楽監督2シーズン目最後となる新日本フィルの定期演奏会サントリーホール・シリーズは、マーラーの交響曲第9番の1曲プロ。佐渡が柱に掲げる「ウィーン・ライン」の交響曲の到達点ともいえる作品であり、佐渡の師匠バーンスタインが歴史的名演を残している特別な1曲ゆえに、現時点での集大成的な意味を感じずにはおれない。

マーラーの大作、交響曲第9番に挑んだ佐渡裕©大窪道治
マーラーの大作、交響曲第9番に挑んだ佐渡裕©大窪道治

曲が張り詰めた緊張感の中で静かに開始されたことにまず驚く。続くヴァイオリンの主題は実に柔らかくしなやかだ。ここまで聴いて只ならぬ凄演の予感が漂う。以下第1楽章は、緊張感が維持された中で細部まで有機的な音楽が展開される。強音も無機質に陥らず、鮮烈にして意味深い。終盤のソロの応酬も見事だ。第2楽章は3拍子の舞曲的な性格が強調される。

後半はさらに白熱の度合いを増した。第3楽章は弾んだ動きの中で強靭な音楽が続き、トランペットのソロ(山川永太郎)が極美の中間部には濃密な花園が広がる。終盤のダイナミックな畳み掛けは圧巻の一語。同楽章から終楽章にかけて佐渡の感情移入も頂点に達した感がある。第4楽章は冒頭から魂のこもったフレーズが流れ出し、生と死が葛藤するかのような迫真的音楽が続いた後、自然に静かに無の世界へと消えていく。

終楽章にかけて佐渡の感情移入は頂点に達した©大窪道治
終楽章にかけて佐渡の感情移入は頂点に達した©大窪道治

正直に言って、かくも渾身の名演が成就されるとは思いもしなかった。新日本フィルは全パートが最高度のパフォーマンスを発揮。中でもホルンの山田圭祐の豊麗かつ雄弁なソロが光った。前日にトリフォニーホールで演奏している点も奏効したと思えるが、ジョナサン・ノットやシャルル・デュトワの指揮で示した高水準の管弦楽演奏を耳にすることができたのは嬉しい限りだ。これは、当方が聴いた佐渡&新日本フィルのベスト・コンサートと言っていい。

(柴田克彦)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 第660回定期演奏会

1月26日(日)14:00サントリーホール

指揮:佐渡 裕
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

プログラム
マーラー:交響曲第9番ニ長調

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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