ロウヴァリのみずみずしいタクトと、フィルハーモニア管の名人芸による洗練された快演
すでに本欄でリポートがあったAプログラムに続いて披露されたBプログラムは、チャイコフスキーにバルトークと、やはり民族色の濃い組み合わせ。しかもオーケストラの機能性が直に表れる曲目が並んだ。フィンランド出身の気鋭による、みずみずしい新風を感じさせる指揮と相まって、英国の代表的な楽団ならではのジェントルで洗練された快演になった。

最初のチャイコフスキー「イタリア奇想曲」冒頭から、壮麗で抑えの利いた金管が威力を発揮し、英国のブラスらしい温和な音色で魅了。弦セクションは目のつまった緻密な合奏を繰り出し、潤いある木管と共に落ち着いた風情を醸す。ロウヴァリのタクトは無理にオーケストラをあおらず、スムーズな流れを保った。終盤のコーダに至って、激しいアッチェレランドをかけ、威勢良く曲を結んだ。

両者の良好なコンビネーションが特に確認できたのは、後半のバルトーク「管弦楽のための協奏曲」。やはりロウヴァリは楽団の名人芸を自然に発揮させて強引なドライブを避け、明快な音色で足取りも軽く進めて行く。分離の良い各パートから微細なニュアンスがふんだんに立ちのぼり、細部の情報量が多く聴き取れる。
第1楽章冒頭で柔らかいピアニッシモが追い込めていたのは、緊密な共同作業の表れ。第2楽章「対の提示」ではユーモラスな木管の効果的な浮き彫りに、耳が吸い寄せられた。民俗的なイディオムをスマートに消化し、モダンな味わいに溶けこませていた。
特筆すべきは弦セクションの前から後ろまで、ピタリとそろったボウイング(弓遣い)とピッチ(音程)。これが緻密な合奏の源だ。個々の高い技量はもちろんだが、このプロフェッショナリズムは日本の楽団も大いに手本として欲しいところだ。

両曲の間に披露されたのは、人気ピアニストの辻井伸行が独奏を務めたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。辻井は持ち前のクリーンな音色とパワフルなタッチで、迫力十分に作品の魅力を明らかにした。バックとの間合いを時に図りながらの共演となったが、気鋭の多彩なタクトに導かれた英国の名門との手合わせは、辻井にとっても芸境を深める良い経験になったことだろう。
(深瀬満)
※取材は1月22日(水) の公演
公演データ
フィルハーモニア管弦楽団 日本公演Bプログラム
1月22日(水) 19:00サントリーホール、25日(土)14:00フェスティバルホール(大阪)
指揮:サントゥ=マティアス・ロウヴァリ
ピアノ:辻井伸行
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
プログラム
チャイコフスキー:イタリア奇想曲Op.45
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
バルトーク:管弦楽のための協奏曲BB 123 Sz 116
ソリスト・アンコール
ドビュッシー:月の光
アンコール
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
※他プログラムの公演日程等の詳細は、公式ホームページをご参照ください。
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。