秋山和慶指揮 東京交響楽団 第724回定期演奏会

驚異的な気力の充実!秋山が指揮者生活60周年記念演奏会で聴かせた渾身のブルックナー

東京交響楽団第724回定期演奏会は、「秋山和慶指揮者生活60周年記念」の副題を掲げて開催された。秋山は、1964年に東響を指揮してデビューし、1968年から2004年まで東響の常任指揮者・音楽監督を務めた。現在、東響では桂冠指揮者のポストにある。

指揮者生活60周年を迎えた秋山和慶ⒸN.Ikegami/TSO
指揮者生活60周年を迎えた秋山和慶ⒸN.Ikegami/TSO

メインはブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。第1楽章からじっくりとした歩み。オーケストラの全奏は、粗野にならず、良い響きが保たれる。音楽の流れは、奇をてらわず、自然。第2楽章では3人の首席奏者(西村眞紀、武生直子、青木篤子)がそろうヴィオラが活躍。力むことなく、良い音色を奏でる。楽章の頂点の全奏ではバランスの整った最強音が鳴らされた。第3楽章では金管楽器陣が好調。響きがよく作り込まれている。トリオの開始での弦楽器のロング・トーンが温かい。そして第4楽章では堂々たる偉容が示された。全体を通して、83歳のマエストロの気力の充実ぶりは驚異的であるといえるし、音楽の自然な流れのなかでの絶妙なテンポの揺れにはまさに円熟味が感じられた。

ベルク「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストは竹澤恭子ⒸN.Ikegami/TSO
ベルク「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストは竹澤恭子ⒸN.Ikegami/TSO

演奏会前半には、竹澤恭子の独奏でベルクのヴァイオリン協奏曲が取り上げられた。竹澤のヴィブラートのよく掛かった艶っぽい音はロマンティックであるが、表現自体は洗練されているように思われた。技術的にも安定感があり、オーケストラともよくコミュニケーションをとり、第一人者としての実力を発揮。秋山は明晰(めいせき)な指揮でオーケストラを率い、独奏者と呼吸を合わせる。金管楽器陣に今一つ不安定なところがあったのは、ブルックナーに時間を取られたからであろうか。ソリストアンコールとして、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から第3楽章が演奏された。
なお、秋山和慶の指揮者生活60周年を記念する演奏会だけに、プログラム冊子に、少なくとも秋山&東響の主な演奏会の記録は載せてほしいと思われた。
(山田治生)

秋山の指揮者生活60周年を祝って、カーテンコールでは60本のバラの花束が贈られたⒸN.Ikegami/TSO 
秋山の指揮者生活60周年を祝って、カーテンコールでは60本のバラの花束が贈られたⒸN.Ikegami/TSO 

公演データ

東京交響楽団 第724回定期演奏会

9月21日(土)18:00 サントリーホール

指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:竹澤恭子

プログラム
ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」
ブルックナー:交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンティック」WAB104

ソリストアンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調 BWV1003より第3楽章アンダンテ

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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