ルイージの創意とN響の特質が融合した充実のコンサート
9月のN響B定期は、A定期に続く首席指揮者ファビオ・ルイージの登場。シューベルトのイタリア風序曲第2番、シューマンのピアノ協奏曲(独奏は体調不良のグリモーに代わるアレッサンドロ・タヴェルナ)、ベートーヴェンの交響曲第7番が披露された。
すべて19世紀前半の独墺作品で、リズムとカンタービレの共存が特徴。独墺物と〝歌わせる〟ことに長けたルイージに相応しい演目だ。しかも彼とN響が共に敬愛するサヴァリッシュの十八番作曲家揃い。まずは定期のプロに対するこうした思慮深さを買いたい。
最初のシューベルトは、遅い序奏から軽妙なリズムと温かな歌が共生し、快速部分ではロッシーニばりの愉悦感が心を弾ませる。柔らかな弦楽器と瑞々(みずみず)しい木管楽器の絡みも絶妙だ。
シューマンの独奏者タヴェルナは1983年イタリア生まれ。相応のキャリアの持ち主でルイージとの共演経験もある。彼は遅い部分をじっくりと、速い部分を明確かつ流麗に奏でる。派手さはないが力任せに陥らない的確なソロ。急な代役としては健闘したと言えるし、アンコールのバッハ「羊は安らかに草を食み」のデリケートな表現で高い音楽性を垣間見せた。
後半のベートーヴェンは16型(前半は14型)でむろん豊麗だが、これまた第1楽章からリズムとカンタービレが併存し、あらゆるフレーズが息づいている。第2楽章も、リズムが歌い、繊細な弱音が耳を奪う。第3楽章はトリオの細やかな表情と広大なダイナミクスが光る。第4楽章は超速テンポによる畳みかけ。ただし、よくある勢い任せの「ベト7」とは違ったしなやかさが内包されている。全体を見ると、モダン・オケの定期で、しかも16型でこの曲を聴かせる意義を明示した快演と言っていい。
ルイージの創意とN響の特質が融合した充実のコンサート。
(柴田克彦)
公演データ
NHK交響楽団第2017回 定期公演Bプログラム
9月19日(木)19:00 サントリーホール
指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:アレッサンドロ・タヴェルナ
プログラム
シューベルト:イタリア風序曲 第2番 ハ長調 D.591
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92
ソリストアンコール
J.S.バッハ(ペトリ編):羊は安らかに草を食み
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。