ロビン・ティチアーティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団:

London Philharmonic Orchestra conducted by Robin Ticciati in Tokyo

優美で温もりを絶やさないマーラー5番

1983年ロンドン生まれのティチアーティは25歳の時、ザルツブルク音楽祭制作のクラウス・グート演出「フィガロの結婚」の指揮者に抜擢され、日本デビュー。41歳の現在はベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者・芸術監督だが、2014年から英国グラインドボーン音楽祭音楽監督を務め、そのピットを担うロンドン・フィル(LPO)とも密接な関係にある。マーラーの大編成でもティチアーティはLPOをきめ細かく歌わせ、決して重くならない古典的優美さを際立たせる。かつてゲオルク・ショルティがシカゴ交響楽団音楽監督とLPO首席指揮者を兼ねた時期、モーツァルトのオペラの録音にはLPOを起用していた事実も思い出し、歌心にひいでた楽団の個性を再認識した。

指揮者のロビン・ティチアーティ。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とは、2014年から音楽監督を務める英国グラインドボーン音楽祭で、密接な関係を築いてきた 撮影:堀田力丸
指揮者のロビン・ティチアーティ。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とは、2014年から音楽監督を務める英国グラインドボーン音楽祭で、密接な関係を築いてきた 撮影:堀田力丸

冒頭のトランペットを担ったポール・ベニストン、第3楽章で起立してホルンを独奏したアンネマリー・フェデェルレら金管だけでなく、木管の見事なソロとアンサンブルにはベルリン・フィル的な超絶技巧とは異なる英国流儀のオーケストラ〝道〟が色濃く残り、深い味わいがある。意外だったのはチューニング。英国の楽団には楽員がチューニングを済ませた後、リーダー(英国でのコンサートマスターの呼称)が堂々と現れる慣習が健在だが、今回のLPOではリーダーのピーター・スクーマンが最初から座り、チューニングを行った。誰が突出するでも脱落するでもなく、和気藹々(わきあいあい)の雰囲気の中で古典の品格を保ち、第4楽章アダージェットでは夢みるような時間も現出させた。アンコールのエルガーがまた、自国作品への深い愛情をにじませて絶品だった。

辻󠄀井伸行がピアノ独奏を務めたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(写真は9月6日(金)アクトシティ浜松 大ホール公演よりphoto:Hitomi Matsui)
辻󠄀井伸行がピアノ独奏を務めたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 撮影:堀田力丸

前半は辻󠄀井伸行の「皇帝」。この曲を弾き始めた当時に比べ音量の豊かさを増したにもかかわらず音の透明度が保たれ、とりわけ第2楽章の深い味わいにつながった。ティチアーティも編成を12型(第1ヴァイオリン12人、マーラーでは16型に拡大)に絞り、ティンパニを古典モデルに替えるなどで様式を整え、清新な響きで辻󠄀井を支えた。

(池田卓夫)

公演データ

ロビン・ティチアーティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

9月11日 (水)19:00サントリーホール

指揮:ロビン・ティチアーティ
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

プログラム
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
マーラー:交響曲第5番

ソリストアンコール
カプースチン:8つの演奏会用エチュードから「プレリュード」
アンコール
エルガー:エニグマ変奏曲から第9変奏「ニムロッド」

その他の公演日程やプログラム等、データの詳細は公演ホームページをご参照ください。
https://avex.jp/classics/lpo2024/

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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