サイトウ・キネン・オーケストラの名人芸がいかんなく発揮されたブラームス
セイジ・オザワ松本フェスティバル2024でのサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)のCプログラム。急病のアンドリス・ネルソンスに代わって、下野竜也がブラームスの交響曲第3番を、ラデク・バボラークが同第4番を指揮した。弦楽器は16型(弦5部の人数が16、14、12、10、8)。
まずは交響曲第3番。第1楽章冒頭から、管楽器のハーモニーが素晴らしく、弦楽器のクレッシェンドに凄みを感じる。下野は、オーケストラの熱量に負けないよう、思い切り良くオーケストラをリード。結果として、SKOの16型の分厚い弦楽器の伝統を生かしたブラームス演奏となった。ハッとするような弱音表現もある。第3楽章冒頭のメロディもチェロやヴァイオリンによってたっぷりと歌われた。ホルンのバボラークが見事なソロ。第4楽章でも下野は攻めの指揮。オーケストラは第2主題を強靭に歌う。そして、結尾はトランペットのガボール・タルケヴィをはじめとする金管楽器陣の弱奏が素晴らしく、味わい深い余韻を残して締め括られた。スーパー・オーケストラともいえる名手たちを前に臆することなく自分の音楽を伝えながら、SKO独自の音楽にまとめあげた下野の手腕に感銘を受けた。コンサートマスターは矢部達哉。
第4番の指揮はバボラーク。ビートをはっきりと振り、オーケストラを開放的に鳴らす。テンポを溜めたりせず、音楽の流れが良い。オーケストラが伸び伸びと演奏しているように感じられる。第4楽章冒頭、主題が激しく奏でられる。確かに、楽譜には「エネルジーコ・エ・パッショナート(エネルギッシュに、そして情熱的に)」の指示がある。バボラークの描くブラームスの第4番は枯れていない。陰影よりもそれぞれの楽器の魅力を活かした演奏。自身がSKOの奏者であるバボラークが、指揮者としてSKOのまた別の魅力を引き出してくれた。コンサートマスターは豊嶋泰嗣。
この日のSKOのブラームスは圧倒的であったが、今の時代に、腕利きの弦楽器奏者たちがブラームスを16型(最大編成)で演奏することへの違和感も少し覚えた。それをSKOのスタイルと言うこともできるが、小澤征爾総監督亡き後、伝統を守り続けていくのか、より柔軟なオーケストラに変わっていくのか、考慮する時期に差し掛かっているようにも思われた。
(山田治生)
公演データ
セイジ・オザワ松本フェスティバル2024 オーケストラコンサートCプログラム
8月22日(木)16:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
指揮:下野 竜也(第3番)
:ラデク・バボラーク(第4番)
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
コンサートマスター
:矢部達哉(第3番)
:豊嶋泰嗣(第4番)
ブラームス
:交響曲第3番ヘ長調Op.90
:交響曲第4番ホ短調Op.98
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。