進化を続ける〝天使の歌声〟~多様性と多彩さを増したプログラムで新たな魅力を発信
20年以上ぶりに聴いたウィーン少年合唱団のコンサート、以前に比べて多様性と楽しさが各段に増していたように感じた。
今回来日しているのは4組あるグループの中からシューベルト組の25人。6月16日までの間、全国で26公演も開催する。聴いたのは東京での初日となる3日の公演。会場のサントリーホールは親子連れなどで満員(ステージ奥のP席は使用せず)。日本における〝ウィーン人気〟の一端が窺えた。
さて、多様性であるがその代表例がプログラミング。「夢みる夜と魔法の世界」と題されたこの日の演目について、冒頭、カペルマイスターで指揮を務めたオリヴァー・シュテッヒが日本語で「時代を超えて人々の世界を楽しませてくれたおとぎ話と夜の世界をテーマにお届けします」なとど説明。以前はウィーン音楽を中心にクラシックに寄ったプログラムが多かったように記憶しているが、今回は始めと終わりにヨハン・シュトラウスⅡのワルツを配置していたが、それ以外は映画「サウンド・オブ・ミュージック」のナンバーやスタジオ・ジブリ作品の「天空の城ラピュタ」と「ハウルの動く城」から久石譲作曲による子どもたちにもお馴染みのメロディーが歌われるなど多彩な選曲が目を引いた。さらに曲ごとにメンバーがヴァイオリンやフルート、クラリネット、ギター、ピアノで伴奏を行うなど、未来のウィーン・フィル団員?の片鱗(へんりん)を見せていたのも微笑ましかった。また、曲の紹介も団員たちがいずれも流暢な日本語で行った。
そして後半4曲目の「ふるさと」(岡野貞一)では、25人がステージいっぱいに広がって歌唱。まさに「天使の歌声」というべき透明感あふれる美しいハーモニーがホール全体にこだました。
プログラムの最後、「美しく青きドナウ」を終えても盛んな喝采は収まらず、ヨハン・シュトラウス(父)のラデツキー行進曲をアンコール。ラデツキーでは団員のひとりが前に出て指揮者のように聴衆に向かって手拍子をリード。聴衆もよく心得たもので強弱をはじめウィーン・フィルのニューイヤーコンサートさながらのスタイルで手を叩くなど、ここにも日本の聴衆にウィーンの文化が深く浸透していることが表れていた。さらにもう1曲、アフリカ民謡の「ショショローザ」をシュテッヒがアフリカの太鼓シャンベを叩き、団員たちが踊りながら歌い賑やかに締めくくった。「天使の歌声」の伝統を継承しながらも多様性と多彩さを増したウィーン少年合唱団のコンサートは彼らが今も進化を続けていることを実感させてくれるものであった。
(宮嶋 極)
公演データ
ウィーン少年合唱団2024年東京公演
2024年5月3日(金・祝)14:00 サントリーホール大ホール
指揮:オリヴァー・シュテッヒ
合唱:ウィーン少年合唱団
ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「千夜一夜物語」
ブルックナー:「真夜中に」
滝廉太郎:「花」
岡野貞一:ふるさと
久石譲:映画「天空の城ラピュタ」より〝君をのせて〟
久石譲:映画「ハウルの動く城」より〝人生のメリーゴーランド〟
ハーライン:映画「ピノキオ」より〝星に願いを〟
シュワルツ:ミュージカル「ウィキッド」より〝エメラルドシティ〟
ヨハン・シュトラウスⅡ:アンネン・ポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」ほか
アンコール
シューマン:リーダークライスOp.39-5「月夜」(ソロ曲)
ヨハン・シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲
アフリカ民謡:ショショローザ
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。