マリー・ジャコ指揮 読売日本交響楽団第265回土曜マチネーシリーズ

気魄(きはく)の籠(こも)ったベートーヴェン、力強い「歌」に満ちたブラームス

初来日で初共演の注目のマエストラ、ジャコに、人気ピアニストのメルニコフをソリストに迎えての読響のマチネー。「皇帝」の第1楽章冒頭、オーケストラとピアノによるどっしりした豊かなサウンドがホール一杯に響き渡る。メルニコフは気魄の籠った攻めの姿勢。ピアノの鳴らし方はロシア流派のそれで、ほどよい脱力のタッチで音楽の情感にふさわしい多彩な音色を引き出し、随処に霊感と閃(ひらめ)きを感じさせる。第2楽章冒頭、ピアノと弦による究極の弱音のぞくぞくするほどの美しさ。ソロの語り口や各楽器との親密な対話がすばらしく、印象的な橋渡しの後の終楽章も、鮮やかな名人芸とともになみなみならない気魄を感じさせる。一貫して強い意志に支えられた演奏に時代を超えた作品のメッセージを聴いた。

ウィーンゆかりの作曲家を取り上げた本公演のポスター
ウィーンゆかりの作曲家を取り上げた本公演のポスター

後半のブラームスの交響曲。第1楽章冒頭、弦の主題が見事に揃(そろ)う。アゴーギクは控えめで表現はストレート。展開部の終わりからコーダにかけて大きく高揚。読響の弦の鳴りは目下日本のオーケストラ中だんとつだが、深みのある温かなサウンドで奏でる大らかで力強い「歌」が感動的だ。第2楽章は高らかなホルンとフルートが鮮やかで各楽器間のバランスが絶妙。第3楽章、弦の硬めのアーティキュレーションによる激しい弾き込みと柔らかな第2主題、終楽章の弦の熱烈な総奏やフルートの長大な悲歌、時の止まったようなトロンボーンのコラール、再現部からコーダに至る壮大なクライマックスなど聴き応(ごた)え十分の秀演だった。

(那須田務)

拍手喝采のカーテンコール
拍手喝采のカーテンコール

公演データ

読売日本交響楽団第265回土曜マチネーシリーズ
2024年3月16日(土)14:00 東京芸術劇場コンサートホール
指揮:マリー・ジャコ
ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ
管弦楽:読売日本交響楽団

プログラム
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」
ブラームス:交響曲第4番ホ短調Op.98

ソリストアンコール
プロコフィエフ「束の間の幻影」Op.22-17

Picture of 那須田 務
那須田 務

なすだ・つとむ

音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。

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