鈴木優人 J.S.Bachを弾く 3 ― 平均律第2巻

多彩な活動を続ける鈴木優人が挑んだ壮大なプロジェクトの最終回

指揮者や鍵盤奏者として多彩な活動を続ける鈴木優人。縁の深いトッパンホールでチェンバロに向かう「J.S. Bachを弾く」と題した3回の連続リサイタル最終回は、「平均律クラヴィーア曲集第2巻」を選んだ。初回(2021年11月)の同第1巻、2回目(23年2月)の「6つのパルティータ」とも、海外のレコード会社によるセッション録音が同時に同ホールで実現。みずからの原点を確かめる大切な機会になったことだろう。

「平均律クラヴィーア曲集第2巻」の全曲演奏に挑んだ鈴木優人 (c)大窪道治 提供:トッパンホール
「平均律クラヴィーア曲集第2巻」の全曲演奏に挑んだ鈴木優人 (c)大窪道治 提供:トッパンホール

舞台には鈴木家からフレンチ・タイプの2段鍵盤(クシェ・モデル)が運ばれた。父・雅明の演奏がストイックな厳しい造形感覚を貫くのに対し、優人の場合は、もっと自然体のインティメイトな雰囲気を旨とし、柔和でスマートな作りが持ち味。概してテンポは速く、さらりとした感触。ゆったりした前奏曲でフレージングやテンポを伸縮させて自在な感覚を醸す一方、速いフーガでは歯切れ良いリズムによる推進力で引き締める。

演奏にはフレンチ・タイプの2段鍵盤(クシェ・モデル)が使用された (c)大窪道治 提供:トッパンホール
演奏にはフレンチ・タイプの2段鍵盤(クシェ・モデル)が使用された (c)大窪道治 提供:トッパンホール

第2巻特有の幅広い音楽語法も、しなやかにこなした。いわゆる多感様式による洗練された第12番ヘ短調や第18番嬰ト短調の前奏曲では、陰影ある抒情(じょじょう)をすっきり表出。第5番ニ長調の前奏曲などが内包するソナタ形式の萌芽(ほうが)も、丁寧に解き明かした。第8番嬰ニ短調のフーガ冒頭で、思わず空いた左手で指揮をとるそぶりを見せたように、曲がもつ歌謡性への率直な共感も、全体を通じて発揮された。

 

二重対位法を駆使して技法を究めた第22番変ロ短調のフーガのような厳粛な曲でも、むしろ淡々と、凝った構成を示したが、ここにふさわしい重みや手ごたえは、今後さらに深まっていくのだろう。初回の第1巻と比べても格段の成長を聴かせた気鋭、「本業」での一層の精進に期待したい。

(深瀬満)

公演データ

鈴木優人 J.S.Bachを弾く 3 ― 平均律第2巻

2024年1月14日(日)15:00トッパンホール

鈴木優人(チェンバロ)

プログラム
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 BWV870~893

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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