来日が中止となったフェドセーエフの代役を巨匠の教えを受けた若手指揮者2人が見事に務めた
N響にとってはご難続きであった。10月の桂冠名誉指揮者ヘルベルト・プロムシュテットの来日中止に続いて、今月は11月定期Aプロを振るはずだったロシアの名匠ウラディーミル・フェドセーエフが体調不良で来日できなくなったのだ。発表は公演10日前の15日。フェドセーエフこだわり演目だけにわずかな期間に代役を探すのは容易ではなかったに違いない。結局、N響の指揮研究員である平石章人と湯川紘惠の2人が前・後半を分担して指揮することになった。この若手起用について当初、SNS上などで賛否両論が渦巻く事態となった。N響は20日に改めて2人の起用理由をホームページなどに発表した。それによると今春に行われた近畿・四国ツアーでフェドセーエフに同行し、さまざまな教えを受け、今回の公演でも「眠りの森の美女」の抜粋編の譜面作成に携わるなど準備段階からプログラムを理解している2人が適任と判断した、としている。(詳細は同団HPをご覧ください | NHK交響楽団 (nhkso.or.jp))。
フェドセーエフ・ファンの残念な気持ちは十分理解できる。しかし、生身の人間による舞台芸術ではこうした事態は常に内在するリスクでもある。欧米ではこんな時、若手を抜てきすることも珍しくはない。それが大指揮者への道の第一歩となった例だってある。この日の聴衆の多くは、温かい気持ちで演奏に耳を傾けている雰囲気が会場を包んでいた。
そんなムードの中、前半を担当した平石は気負いを感じさせない肩の力が抜けた指揮ぶりで、しなやかに音楽を紡ぎ出していた。一方、後半の湯川は譜面にしっかりと向き合い、誠実に音楽を作っていた印象。N響も力のこもった演奏で高いクオリティを維持し、2人を支えていた。終演後、それぞれに聴衆から盛大な拍手とブラボーの声援を贈られていた。2人にとっては貴重な経験となったはずで、これを機にさらなる飛躍を期待したい。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第1997回定期公演 11月定期Aプログラム
11月25日(土)18:00 、26日(日)14:00 NHKホール
指揮:平石 章人(前半)、湯川 紘惠
コンサートマスター:伊藤 亮太郎
スヴィリドフ:小三部作
A.・ルビンシテイン:歌劇「悪魔」のバレエ音楽-「少女たちの踊り」
グリンカ:歌劇「イワン・スサーニン」-「クラコーヴィアク」
リムスキー・コルサコフ:歌劇「雪娘」組曲
チャイコフスキー(フェドセーエフ編):バレエ組曲「眠りの森の美女」(抜粋)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。