レオ・ヌッチ インタビュー「いまもほぼ毎日、1800年代のテクニックをもとに訓練しています」

いまもほぼ毎日、1800年代のテクニックをもとに訓練しています

1967年にデビューして以来、世界の主要劇場で数々の伝説をつくってきたイタリアのバリトン、レオ・ヌッチ。昨年2月に東京で開催されたコンサートでは、80代にして現役の歌手が束になっても敵わないほどの圧倒的な声力で歌い、満場の大喝采をさらった。そしていま、再びの、そして最後の来日。それを前に、圧倒的な歌唱を保つ秘訣と、コンサートへの抱負を聞いた。

(取材/文:香原斗志)

レオ・ヌッチ

——昨年のコンサートは大成功で、私自身、深く感動しました。ヌッチさんがいまなお若々しい歌唱を維持されているのは驚異ですが、どうやって声を保っているのですか?

ヌッチ 昨年の2つのコンサートは本当に大成功でしたので、また日本に行けてうれしいです。実はその後、健康上の問題があって病院ですごした時期もありましたが、いまはもう大丈夫。よい状態で歌えそうです。私は83歳になりました。しかし、時々休むことがあっても、ほぼ毎日訓練しています。先生たちから教わったテクニック――それは1800年代のやり方と同じだと思いますが――にもとづき、声を磨いています。私は昨年、感動をたくさんいただきました。今回もみなさんと感動を分かち合いたいと願っています。

——「ラ・トラヴィアータ」と「リゴレット」は、ヌッチさんの大変重要なレパートリーです。父親の感情が深掘りされるジョルジョ・ジェルモンとリゴレットという役の魅力を説明してください。

ヌッチ この2演目はヴェルディのオペラでも、もっとも頻繁に上演されます。ご存じのように、私はこれら2つを愛していて、それぞれがわが人生の一部です。ヴェルディは幼い2人の娘を失くすというつらい経験をしていて、2つの父親役には、ヴェルディがそうありたいと願っていた父親像が反映されていると思います。ジェルモンが歌う有名なアリア「プロヴァンスの海と陸」は、父親が歌って聴かせる子守歌にも似ています。リゴレットは道を誤り、企てた復讐が自分の身に降りかかってしまいます。2役とも本当に深く、私には非常に魅力的です。来たるコンサートでは、まさに父と娘の関係に絞り、これら2演目のハイライトをお聴かせします。「リゴレット」は父と娘。「ラ・トラヴィアータ」の二重唱は、正確には父娘ではありませんが、ヴィオレッタを娘として抱きしめる場面で描かれるのは、父親の感情です。

レオ・ヌッチ
©RobertoRicci

——この年齢まで歌い続けられている理由を、あらためて教えてください。また、若い歌手には、長く歌い続けるためにどんなアドバイスをされますか?

ヌッチ 実際、多くの歌手は高齢になるまでは歌えません。私のほかわずかな歌手だけが、この年齢で歌えるというのが現実です。私が歌えている理由は、次の話もヒントになると思います。若い歌手のためのマスタークラスを行うと、みな大きな声で歌おうとします。しかし、声を磨くとは大きく響かせることではなく、時間をかけて各自の持ち声を、その持ち味に沿って成長させ、自分に合ったレパートリーを歌えるようにすることです。ただ、歌うには声だけでは不十分で、役柄を掘り下げる必要があります。

若い歌手はとにかく、正しく勉強することです。駆け出しの歌手たちは、発声法が間違っていることが非常に多いです。最初は母音をより狭くして、響きを集中させなければいけないいのに、多くの歌手は、喉を開いた広い母音を選択してしまいます。そうすると、豊かな声で歌えているような気がしますが、立派な声のように思えるだけで、結局、声を壊してしまうリスクを負うのです。

——このコンサートでは特にどういうところを聴かせたいですか?

ヌッチ 最初にいったように、みなさんに大きな感動をあたえたいです。ヌッチが来たぞ、とね。高齢のヌッチですが、それほど老いてはいません。そして感動とは、作曲家の思想や理想をしっかり伝えてこそ得られるもの。ですから、作曲家が描いた真実を伝えることで、いっそうの感動を生み出したいと思います。

——最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ヌッチ 私は日本の聴衆が大好きなので、日本に帰れて幸せです。1981年にミラノ・スカラ座の日本公演で「セビーリャの理髪師」のフィガロ役を歌ったときと同じように、しっかり準備してまいります。あれからかなり経ちましたが、特別にすばらしいみなさんと一緒に感動を生み出そうとするのは、本当にうれしいことです。サントリーホールで会えるのを楽しみにしています!

レオ・ヌッチ

公演情報

レオ・ヌッチ 最後の来日
オペラ界の頂点の全てが、ここに凝縮される!

2025年11月9日(日) 12:45開場 13:30開演
サントリーホール 大ホール

バリトン:レオ・ヌッチ
ソプラノ:エンケレーダ・カマーニ
演奏:アンサンブル・ヴェルディ

協賛:三井不動産リアルティ株式会社
主催:楽天チケット株式会社
企画:三本珠理

公式サイト:https://r-t.jp/nucci

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