NHK交響楽団芸術主幹に聞く、第2000回定期公演とN響の近未来

N響の第2000回定期公演でタクトを振る首席指揮者のファビオ・ルイージ 写真提供:NHK交響楽団
N響の第2000回定期公演でタクトを振る首席指揮者のファビオ・ルイージ 写真提供:NHK交響楽団

NHK交響楽団が12月16日、17日に開催する定期公演Aプログラムで、2000回を迎える。記念すべき公演のプログラムは首席指揮者ファビオ・ルイージの指揮でマーラーの交響曲第8番「一千人の交響曲」。この公演の意義と、2001回からのN響の近未来について同団の西川彰一芸術主幹に話を聞いた。(宮嶋 極)

 

2000回公演のプログラムは定期会員をはじめとする聴衆の投票によって決められた。候補はマーラーの交響曲第8番のほか、シューマンのオラトリオ「楽園とペリ」、フランツ・シュミットのオラトリオ「七つの封印の書」の3作品だった。


西川氏は「ルイージさんが首席指揮者に就任したのは昨年9月でしたが、在任中にどのように目玉の企画を作っていくかを就任前から綿密に相談していました。その中のひとつがこの2000回定期だったわけです。(2000回を迎える今年12月は)ちょうどルイージさんの招へい期間と重なっていたので、ここに目玉企画として声楽付きの大規模な作品を演奏することで一致しました。これを一方通行ではなく、我々演奏者の側が定期会員をはじめとする聴衆の皆さんと共に作っていく公演にして、一緒に2000回をお祝いしようとの思いが投票で曲を決めることの発想の原点となりました。結果は当初の予想通りマーラーが多数を占めましたが、他の2曲についてもルイージさんの任期中に機会があれば取り上げていきたいと考えています」と語る。

 

ちなみに1000回定期は1986年10月1日、2日、ヴォルフガング・サヴァリッシュの指揮でメンデルスゾーンのオラトリオ「エリア」が取り上げられ、日本の演奏史に残る名演が披露された。今回もサヴァリッシュと同じくオペラ指揮者としても国際的名声の高いルイージの指揮による声楽付きの大曲とあって、多くのファンが歴史的名演の再現を期待しているようだ。

取材に応じるNHK交響楽団 西川彰一芸術主幹
取材に応じるNHK交響楽団 西川彰一芸術主幹

ところでマーラーといえば、2025年5月にオランダ・アムステルダムのコンセルトヘボウで開催されるマーラー・フェスティバルにルイージとN響が招待されマーラーの交響曲第3番と4番を演奏することがこのほど発表された。10日間にわたって開催されるこのフェスティバルにはクラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、イヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮シカゴ交響楽団、キリル・ペトレンコ&ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が出演。マーラーの全交響曲の連続演奏が行われる。

 

「各大陸の名だたるオーケストラが出演する中で、アジアから唯一選ばれたのは大変名誉なことだと感じています。これはルイージさんに対する評価もありますが、2020年に行ったヨーロッパ・ツアーやそれ以前の演奏旅行において各地でN響が高い評価を得たことの成果の表れのひとつである、と言えるでしょう。特に第3番は大作でありN響が海外で声楽付きの作品を演奏するのはこれが初めてとなります」と西川主幹。世界的スーパー・オーケストラと並んでルイージとN響がどのような演奏を聴かせるのか、興味深いところである。

歴史、名実ともに充実の時を重ねるNHK交響楽団 写真提供:NHK交響楽団
歴史、名実ともに充実の時を重ねるNHK交響楽団 写真提供:NHK交響楽団

2001回以降もさらに歴史を積み重ねていくわけだが、昨年9月に就任したルイージの首席指揮者としての任期は2028年8月末まで延長されたばかりで、当面彼が軸となってさらなる充実と発展を図っていくことになる。具体的な活動方針について西川主幹は「そもそもルイージさんを首席指揮者に招へいしたのは、ドイツ音楽を中心としたN響のレパートリーと合致することが大きかったわけで、各シーズンにおいてブラームス、ブルックナー、マーラー、リヒャルト・シュトラウスといった後期ロマン派の作品が柱となっていくことは間違いありません。さらに桂冠名誉指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットさんは来年の来日に意欲を示しておられ、先生がやりたい作品を満足いくようやっていただくために10月は空けてあります。名誉指揮者に就任されたパーヴォ・ヤルヴィさんも定期的にお招きしていきます。このたび下野竜也さんが正指揮者に就任しましたが、(既に正指揮者の肩書を持つ)尾高忠明さんとともに、タイトル指揮者陣にはしっかりと定期公演を振っていただくことになります。また、巨匠やベテランばかりではなく若く才能ある指揮者でN響に愛着をもっていただけるような方も発掘していく必要があります。その好例がトゥガン・ソヒエフさんでしょう。彼はここまでメジャーになる前からN響に客演していましたが、世界的に活躍するようになってからも毎年来てくださる。このような関係を構築できる若手指揮者をこれからも招へいしていきたいと考えています」と西川主幹は説明した。ソヒエフは来年も含めてこのところ毎年1月に客演することが多く、事実上の首席客演指揮者的な存在となっている。将来的には首席客演指揮者のようなポストに正式就任する可能性もありそうだ。

 

N響では2000回定期の選曲をはじめ、終演後の写真撮影とSNSでの拡散を他の団体に先駆けて解禁するなど、聴衆との双方向性を重視した先進的な取り組みが際立つ。コロナ禍などで休止していた聴衆の投票による「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト」も今年復活させた。伝統あるこのオケのこうした取り組みが、日本のオーケストラ界の進歩・発展の推進力になっていくに違いない。マーラー8番の演奏とともに、これからも注目していきたい。

公演データ

NHK交響楽団 第2000回定期公演

12月16日(土)18:00、 17日(日)14:00 NHKホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ソプラノ:ジャクリン・ワーグナー、ヴァレンティーナ・ファルカシュ、三宅 理恵
アルト:オレシア・ペトロヴァ、カトリオーナ・モリソン
テノール:ミヒャエル・シャーデ
バリトン:ルーク・ストリフ
バス:ダーヴィッド・シュテフェンス
合唱:新国立劇場合唱団、NHK東京児童合唱団

マーラー:交響曲第8番変ホ長調「一千人の交響曲」

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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