国内オーケストラによる渾身の交響曲

国内の実力派オーケストラによる渾身のシンフォニー演奏を収めたライヴ盤が、続々と登場した。会場の熱気や深い感銘を伝える貴重な記録ばかりだ。

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マーラー 交響曲第7番「夜の歌」

アンドレア・バッティストーニ(指揮)/東京フィルハーモニー交響楽団

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」
DENON COCQ-85650

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シベリウス 交響曲第2番/「アンダンテ・フェスティーヴォ」

村川千秋(指揮)/山形交響楽団

Mクラシックス MYCL-00070

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ブルックナー 交響曲第8番 第1稿・新全集版ホークショー校訂

高関健(指揮)/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

ブルックナー 交響曲第8番 第1稿・新全集版ホークショー校訂
ブレーン・ミュージック OSBR-41064

アンドレア・バッティストーニも東京フィルも、芸術上の根底にあるのはオペラだ。したがってマーラーのような交響楽作品を演奏しても、持ち前の強じんな歌謡性とオペラティックな演出力が前面に出てくる。「夜の歌」というタイトルをもち、複雑な構造をもつ交響曲第7番では、そんな特質がいっそうユニークな形で実を結んだ。
作品のダークな色合いを陰影深く表出し、濃密な歌にあふれる。決して陽性に傾かず、むしろ血なまぐさいヴェリズモ・オペラに通じるような、おどろおどろしいストーリーテラー的な資質が現れた。その一方で作品の構造を立体的に解析し、内声部のディテールを克明に追い込むなど、細やかな目配りにも欠けない。小鳥の鳴き声を模した木管の絡み合いや、第4楽章「夜曲Ⅱ」の甘美な風情など、印象的な場面が続く。東京フィルの劇的表出力が相乗効果をあげた。2024年11月、サントリーホールでのライヴ。

山形交響楽団を1972年に結成し、心血を注いできた創立名誉指揮者の村川千秋は昨年、惜しまれつつ92歳の生涯を閉じた。業績の集大成として2024年8月に山形市で開かれた特別演奏会で披露したシベリウス交響曲第2番がディスク化された。シベリウスは村川が特に大切にしてきたレパートリー。本人と楽員、聴衆すべての万感がこもる記念碑的な演奏会の記録だけに尋常ではない求心的な空気にあふれ、熱っぽい感興を強めている。

ブルックナー生誕200年だった2024年は珍事も起きた。東京では交響曲第8番の珍しい第1稿を、ふたつの団体が同じ月の定期演奏会で披露する鉢合わせが生じた。その一方が高関健と東京シティ・フィル。先にライヴ盤の出たルイージ/N響が第2稿の洗練された流れを意識させたのに対し、高関は第1稿ならではの着想の原点や野趣を徹底的にあぶり出し、あえてラジカルな魅力を強調したのが、この指揮者らしい。

 

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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