海外、そして国内で、クラシック音楽界に旋風を巻き起こす若き才能が、新譜ディスクでも注目作をリリースした。
<BEST1>
マケラ&オスロ・フィル シベリウス:交響曲第2番ほか
クラウス・マケラ(指揮)/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
シベリウス:交響曲第2番ニ長調/同第5番変ホ長調
デッカ(ユニバーサルミュージック) UCCD-45018
<BEST2>
カーチュン&日フィル マーラー:交響曲第5番
カーチュン・ウォン(指揮)/日本フィルハーモニー交響楽団
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
DENON(日本コロムビア) COCQ‐85588
<BEST3>
辻井伸行、アシュケナージほか ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
辻井伸行(ピアノ)/ウラディーミル・アシュケナージ(指揮)/シドニー交響楽団
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調
エイベックス AVCL‐84139
コメント
指揮者の世界では近年、若い世代の台頭が急だ。なかでもフィンランド出身のクラウス・マケラは台風の目になりそうだ。1996年生まれの26歳ながら、すでに名門パリ管弦楽団の音楽監督の座を射止め、この10月には来日公演で話題を呼んだ。それに先立つ6〜7月の東京都交響楽団への客演では、時ならぬチケット争奪戦が起きたほど。2027年からはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を率いることが決まっている。
そんな才能のほどを証明するのが、いま首席指揮者を務めるオスロ・フィルと録音した、お国物のシベリウス。みずみずしい感性で巨峰に立ち向かい、清新な勢いにあふれる。流れの良いスムーズな解釈ながら、時折顔を出す独特の読みや強調が印象的な効果をあげる。オーケストラの緻密なアンサンブルを生かした手厚く温かい響きも魅力だ。力ずくでオケをあおらない、目の行き届いた細やかなコントロールが、大器の予感を漂わせる。
対する日本のオーケストラ界で同様の期待感が高まっているのは、シンガポール出身の気鋭、カーチュン・ウォンを2023年9月から首席指揮者に迎える日本フィルとのコンビだ。ウォンは2016年にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝し、一躍注目を浴びた。日本フィルとのデビュー盤にも、21年12月にライヴ収録したマーラー交響曲第5番が選ばれた。身振りの大きい表情豊かな演奏で、自分の表現したい音楽が実に明確なのが頼もしい。
ピアノの辻井伸行には、すでに大家の気配すら加わってきた。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番のライヴ盤では、大先輩アシュケナージの指揮する風格あるバックに支えられて、奇をてらわず真正面から作品に向き合う真摯(しんし)なアプローチが光る。この9月に各地で披露した実演も好評だった。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。